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「どうせ飲むんだったら、酔ったほうがいいでしょ」とバーテンダー。
「いやあ、酔いたくないです」と連れ。つづけて、「いかに酔わずにたくさん飲めるか、これがひとつテーマですね」
事の真実は、ふたりの証言のちょうど真ん中あたりに転がっていると思う。酔いたいけれど、酔いたくない。酔いたくないけれど、結局は酔いたい。酔ってしまう。これが日々に繰り返され、人生の時間はどうしようもなく過ぎていく。
そこで連れは告白しないわけにはいかない。「酒量が落ちて落ちて。それなのに飲むと飲んじゃうみたいな。ワケのわからない状況なんですよー」
そのワケのわからなさに、バーテンダーの断固とした裁きが下る。「このお客さん酔わないなと思ったら、酔わせようと。酔ったなという声が、カウンターのそちら側から聞こえてくると、とてもうれしいです」
客の逡巡、迷い、中途半端に対して、決着をつける、頼もしいジャッジ。そんなバーテンダーに、世田谷区桜新町などという、ぼくにとっては見も知らぬこと甚だしい街の、しかも裏通りで出会った。
頼れるなと思わせるには、理由がある。カクテルの基本を、「ベースをしっかり」に置いていることである。ジンなりウォッカなりベースになる酒の醍醐味をフルーツジュースやソーダなどの「添加物」で隠してしまい、柔らかい味わいへ傾斜するのが、昨今のトレンド。これには逆行している。
だからと言って、昔どおりではない。たとえばトム・コリンズ。トム・ジンというおとなしいジンをベースに、レモン、砂糖を加えてシェークするスタンダード・カクテルである。しかし、ここでは、シェークしない。混ぜるだけ。こうして、個性に乏しいジンの味と香りをしっかり残そうと努めるのである。
昔ながらのレシピは尊重するけれど、それにとらわれないという姿勢がはっきりしている。もっとおいしく遊べないか、こうしたらおもしろくなるのでは、と試行錯誤する。
「口当たり良く、お酒たっぷり」をカクテルづくりの信条としている。そこで冒頭の断定も出るわけである。
店には、それぞれにふさわしい客がいる。ここにも「最後にバシッとしたのくれよ」と、バーテンダーに挑む客ひとり。にこやかにこれを迎え撃ち、ジンに、アイラ・モルトのなかでもスモーキーな香りで群を抜くラフロイグを少々。名づけてスモーキー・マーティニが、カウンターを移動していく。
いやなものを見た気がする。酔いがまわりだしたぼくには、あと一杯だけの余力しかない。で、レギュラー・マーティニを注文するタイミングを計っていたのである。そこへあんなのが。「どっち飲んだらいいんだろ。困ったな」
つぶやく当方を断罪したのは、バーテンダーではなくて連れであった。「そんなことで悩むなんて、いい人生じゃないですか」
だろうか?
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東京都世田谷区桜新町 1-3-8
電話 03-5758-3278
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営業時間/19時〜翌3時
休/月曜
カード/ほぼすべて可
カクテル 1000円から
シングルモルトウィスキー 1000円から
他
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