| TOKYO | 2007.6.1. |
☆都市歩行者の東京駅 |
皇居のお濠を背にして、鍛冶橋通りを歩いていた。JR線のガードを通りすぎてまもなく、高層ビルの植栽に埋もれるようにして、階段が地下へ通じているのが目についた。吸い込まれるように入ってしまう。
そこには、見知らぬ地下街がこじんまりとある。いつの間にできたのか、10軒あまりの店舗が集まっている。カフェを覗くと満席で、自分だけが他所者みたいな気になってしまう。さらにエスカレーターを下っていくと京葉線に通じている。このごろの東京駅周辺は、急速に様変わりし、油断がならない。
この駅一帯の再開発については、近い将来、駅本体を囲むようにして高層ビルが林立するというイメージがもてはやされる。たしかに、丸の内地区と日本橋地区の高層化にとって、東京駅はキー・ファクターにちがいない。
東京駅の今後のイメージ図を見ると、赤レンガの丸の内駅舎が、高層の街の中庭、あるいはサンクン・ガーデンの趣きがある。それはそれで美しい眺めである。しかし、この再開発の独自性が見えてくるには、これでは足りない。「庭」の下に展開する地下都市を思い描くことが必要である。
現在すでに、この駅の地下深くを鉄道線路がいくつも抜けている。将来は大深度利用で、さらに深いところにも電車が走ることになるであろう。見えない地下の街をどうつくり、つなげていくか。
東京駅の強みは、言うまでもなく「移動中心」という点にある。地上にも地下にも、移動するための手段が集中しているのである。鉄道ばかりでなく、種々さまざまなバスも発着する。遠距離高速バスから、近隣をガイドする小型バスまで。
東京駅を中心に、交通手段が渦を巻くようにして動きつづける。この「移動中心」で、いかにして人は安らぎを得るか。しばし立ち止まり、あるいは腰を下ろす場をどこに求めるか。地下が果たす役割はここにある。
日本橋口に近い地下に、昔の東京の路地をほうふつさせる飲食街がある。そこの奥まった地ビールの店に出かけていく。午後の一刻、冷やしていない本格ビールを少しずつ口に運び、ぱらぱらと本をめくる。昼には遅く、宵にはまだ間がある、すき間の時間。喧騒から離れ、自分の時間に浸ることができる。
これこそ「地下の贅沢」であろう。先の鍛冶橋通り沿いの地下もそうだったが、東京駅の地下街にあるカフェは客がよく入っている。それに、滞留時間が長いのに気づく。憩いながら気持ちの整理をつけ、どこかへ向かう、心と身体の態勢を整えるのであろう。束の間の「停止」を楽しむ。
六本木や新宿などの「超高層都市」とは異なる「時空の厚み」を東京駅は持っている。高層の街もあり、駅空間もあり、さらには、地下都市がはさまる。それらをいかに合体させるか。この再開発の面白みが発揮される。
東京駅周辺の再開発地域は、Tokyo Station City(東京ステーションシティ)の名称で呼ばれている。これには、3月にオフィス入居がはじまった、日本橋口の「サピアタワー」も、10月に部分的に竣工が予定される八重洲口のツインタワーも、あるいは、復元工事に入っている赤レンガ駅舎も含まれる。
Tokyo Station Cityを、忠実に日本語にすると、「東京駅という都市」となるはずである。駅を都市と呼ぶからには、それなりの覚悟が要る。都市と呼ばれるにふさわしい体裁と内実を備えた空間を、いかに構築するかが問われる。
八重洲地下街のおもちゃ屋に何気なく入り、ふとブロック玩具を手にした。と、幼い頃の記憶が甦り、その後ブロックづくりに熱中するようになってしまった。──という話をした人がいる。東京駅の下に拡がる地下は、ストーリーに溢れ、人の息吹きを近々と感じていられる都市の可能性を示唆している。
★[2007.6.1.]
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