★東京駅の時間は巻き戻せるか

花瓶

 近ごろまた大きく変わったらしい東京駅を、友人と一緒に歩くことにした。「銀の鈴」で待ち合わせようじゃないかと言われ、一瞬、戸惑った。すぐに返事ができず、相手に不審げな表情をされた。「銀の鈴」にはだいぶごぶさたである。そこについては、特徴のない、がらんとした空間のイメージしかない。

 だいたい東京駅のなかでも、このあたりはぼくにとって盲点である。この地下中央通路自体、あまり通ることがない。印象がすっかりぼやけてしまっている。

 ところが、行ってみて驚いた。すっかり別の空間になっていた。待ち人で満杯の「銀の鈴」。バックの壁を、大正3年開業当時の東京駅の外景写真で飾っている。さらに、人々の足元に展開するのは、当時の東京中心部を写し取った市街地図。1万分の1の縮尺で、相当な迫力がある。今の世の人々が、過去の東京を踏みつけていると思えば、心地よくもある。

 一帯は50店に近い店が並ぶエキナカ「グランスタ」の一部でもある。店々をたどっていくと、やがて交差点に至る。

 十字路に立って、ぐるっと360度回転してみる。物販店にまじって、コーヒースタンド、日本酒バー、ATM、外貨交換所、あるいは近隣の街の案内カウンターなどが目に入ってくる。ここは、建物の地下一階ではあるけれど、街として構想されていることがわかる。

 店の間を抜けると、別の店がある、狭い通路へ入り込んでいく。ちょうど路地を行く気分である。街の気配がいっそう色濃く感じられる。

 よく知られるように、東京駅は「ステーション・シティ」をコンセプトとして、駅が在来の駅を超え、都市機能を備えることを目指している。そのためには、大型の構造物も当然必要になるが、「都市の毛細血管」まで血液が行き届くには、人がたまり行き交う界隈空間が豊富にあることが求められる。

 ここにも、そのひとつを見つけた気がした。路地は、とりわけ日本の都市にはなくてはならない空間である。

 さらに八重洲口へ辿る。今回、大丸デパートも新装オープンしているので、最上階の13階まで丹念に見て回った。やはり、1階と地下1階に展開する食品売り場は圧巻であった。高品質の東京ブランドをしっかり揃えている。和菓子でも雑貨でも。これは「グランスタン」の物販店でも感じたことである。

 それらの商品が表現するのは、東京という都市と、そこで過ぎてきた時間である。時間を堆積できる都市こそ、活力を持ちつづけられる。昔ながらのおかきやかりんとうのひととつひとつが、東京を成り立たせるパーツと考えたい。

 その意味で注目されるのは、赤レンガの丸の内駅舎の保存・復原工事である。工事は昨年5月に、500億円の費用を見込んではじまり、2011年の暮れには完成予定という。東京駅ステーション・シティの中心施設と位置づけられ、シンボルとしての価値も高い。

 発表された計画概要の冒頭に、「現存する駅舎を解体して建て直すのではなく、現存している駅舎の外壁など主要部分を可能な限り保存・活用し、創建時の姿に復原します」と明言してある。同時に、先の大戦時に焼失した部分も新たに元通りにつくりなおす。こうして大正3年の姿に限りなく近づけようとするわけである。

 失われた時間を取り戻し、積み上げる。それが、ステーション・シティの貴重な財産となる。それだけに、丸の内駅舎の完成が待たれる。

 この日行を共にした友人とは、3年後に駅舎が完成したら、皇居へ向かう行幸通りから、美しいドームを備えた東京ステーションを眺めようじゃないかと、一応の約束をした。もちろん、おたがい生きていればの話だけれど。
[2008.5.26.]


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