★"SEX AND THE CITY" of TOKYO(2)

「人間として許せない」■

 ふたりのトークは、この後も延々とつづき、男たちを糾弾しつづけることになった。柏田さんは言う。

 「私たちがサイテー男たちを我慢できなくて、攻撃しつづけているのはなぜかって、考えるんですよね。それって、一言で言えば、人間として許せないってことじゃないですか。相手の言動が人間としていかがなものかと感じたとき、そういう人とは男女の関係を築けませんよね。いい子ぶるつもりはないですけれど、あなた、それでも人間? と疑いたくなるような相手とは、もうもう付き合えません」

 SATC(''Sex and the City'')シリーズのなかに、親友4人のひとり、シャーロットが36歳を迎える日、揃って、ニューヨークから近いカジノの町アトランティック・シティへ出かけるというストーリーがある。

 4人のなかで、ホテル経営のお金持ちリチャードを捕まえているサマンサだけは、彼の自家用機でひとっ飛びしてしまう。彼女が心配でならないのはリチャードの浮気である。カジノホテルの自室にメイドを連れ込むのではないか。彼女は、友だちなどそっちのけで、男を監視するためにあっちへ走り、こっちへ目を配り。

 最後は疲れ果ててへたりこみ、彼に言う。''I love you,but I love me more.''(「あなたは好き。でも自分のほうがもっと好き」) 女としてなら、好きな男をいつまでも追いかけまわすけれど、こういうことをしている自分も相手も、人間として許せない、と言っているのである。

 この後、サマンサは、リチャードを放りっぱなしにしたまま、友人たちに合流し、定期バスでマンハッタンへ戻ってしまう。

 倉田沙苗さん(36歳、マネジメントオフィス経営)は、このサマンサのセリフを記憶に刻みつけている。

 倉田さんは、テレビのなかのサマンサが乳がんになったのを知って、早速、マンモングラフィ検診を受けにいったほどの大ファンである。SATCの世界にほとんど同化している。

 「あの言葉は、ディグニティ(人としての尊厳)の大切さを告げています。どんなに男を愛していても、自分に勝るものはない。ドラマのなかの女たちは、みんなそう思っています。だから仲良しなんです。お互いに寄りかかるようなこともありません」

 竹田美呂さん(31歳、外資系ホテル販売促進部)は、大学を卒業して、はじめベンチャーの不動産業に勤めていた。「ふつうのサラリーマン」の男性と知りあい、3年あまり付き合った後、別れた。理由は、彼女が、英語をマスターするためにアメリカ行きを決めたからである。

 「きっと高飛車に聞こえるでしょうが、彼は堅実な暮らしを望んでいました。私がアメリカから帰るのを待ってくれるとも言っていました。でも、帰るまでに私がきっと彼を越えている。ちがう自分になっている。そうなったらもう相手を尊敬できなくなるのではないか。それが怖かったし、そうならない自信はありませんでした。だからいまのうちに別れようと」

 2年間、アメリカ東部のホテルで働きながら、OJT(仕事の現場)で、完ぺきな英語力を身につけた。東京に戻って、念願だった仕事に就いた。3年前のことである。その後、アジア系のアメリカ人と知り合い、まもなく結婚しようとしている。

 「一生懸命苦労して、やっとこのホテルに入り、希望していた部署に配属されました。それを全部投げ打って、いい奥さんになりますとまで思わせてくれる人に出会ったのです。だから、結婚する決心をしました」

 結婚に踏み切る理由をさらに詳しく説明する。「私が訊くことに対してかならず答えを返してくる。それもこちらを納得させる答を。一目置くことができるし、尊敬を抱ける人だと信じることができました」

 お互いを男としてあるいは女としてよりもまず、人間として扱えるか。これにイエスと答えられなければ、結婚を選択するのはむずかしい。竹田さんは、そこにまで至ろうとしている幸せなケースにちがいない。30代の独身女性にとって、それはうらやましくもあり、まぶしくもあるにちがいない。


生殖年齢という怪物■

 ところで、女性には、男が理解できない、あるいはわからないふりをしている生物学的事情がある。

 「女性にとっては、子どもを産んで次の世代を育てていくということは、女性性の本質なので、そのほかのこと(学歴、お金、恋など)というのは取るに足りないことなのです。……ですから、それよりほかのことを大事にして暮らすんだったら、四十九を過ぎて後悔したって知らないよ、ということなのです」  これは、『オニババ化する女たち』からの引用である。文中の49歳とは、女性の生殖年齢、つまり出産可能な年齢の上限とされる。いわゆる更年期である。実際には、45歳ぐらいまでとも言われる。

 30代の独身女性たちは、この生殖年齢というモンスターに付きまとわれ、強い不安を抱かないわけにはいかない。30代も後半に入るととくに、子どもを産まないまま終えるかもしれないとの思いがいっそう強くなる。

 先の倉田さんは、最近話題の卵子凍結に、強く惹かれている。「ハードとしての母体はトシをとっても大丈夫なので、いまのうちにフレッシュな卵子を冷凍保存しておくわけ。パソコンじゃないけど、バックアップをとっておくのです。それで、もしこれはという男が出てきたら、子どもをつくる。これ、いいと思います」

 日本の男たちは、いつまでも恋に恋して日々を送っているようだが、女たちは、未来へのタイムテーブルに押され、のんびりしていることができない。結婚へ、出産へと、意識は飛んでいく。

 昨年のゴールデンウィークのことである。大西さんは、あまりに長かった童貞生活から「救ってあげた」男のマンションを、夜遅くに訪ねた。男は、「こんな夜中に」と、露骨に迷惑そうな表情をした。パソコンに向かって、ひとりきりで「人殺しゲーム」に浸り切っているのを邪魔されたのが、よほど気に入らないらしい。「これから、こういうことはしないでくれよ」

 彼女は惨めな気持ちで、早々にそこを出て、仲の良い友だちの家に泊まった。翌日は、学生時代の友人たちが集まるホームパーティであった。大西さん以外は結婚していて、いずれも子どもがいる。連れられてきたチビたちの喧騒のなかで、おしゃべりに興じた。旧友たちも自分も昔の女の子ではないけれど、久しぶりに会うのはうれしい。

 夕方お開きになり、それぞれに子どもを連れて帰っていく友人らと別れた彼女が、急に寂しくなって向かった先は、占い師の元である。時間をかけて「心のマッサージ」をしてもらう。「仕事だけして、水に浮かぶ発泡スチロールの上を渡り歩くような生活をつづけるのは、もうやめたいという気持ちはあります。落ち着くという意味で、家庭は必要かなと思う」

 そのためには、新しい出会いを探す? 「恋愛は嗜好品のようなものに過ぎないのかもしれない気がしてきました。それは、時間をかけて積み上げた仕事を棒に振るだけの価値があるだろうか。恋愛が大事というのは、女性誌あたりから刷り込まれた幻想に過ぎないのではないですか。ほんとうに必要なのか」

 すると? 「結婚したいです。私はだいぶ前から、結婚というのは家の物件探しと同じじゃないかと思っています。その思いがますます強くなっている。日当たりはいいし、南向きだし、西日は入らないなどなど、そういう条件をクリアする男をともかく見つけたい。だけど、条件を満たしていても、フェロモンがない男ではダメですが。そうか、そういうこと言っているから、なかなか結婚できないんですね、私は」

 仕事はどうするか? 「私は絶対にやめません。SATCでシャーロットが、勤めていたギャラリーを、いかにも名残惜しそうにやめるときは、私、あの場面で泣きましたもの。なんでやめるのって、画面に向かって言いたいくらいでした」

 出産については? 「相手がどうこうじゃなくて、いまできたら産むでしょうね」

 「お子ちゃま」男に悩まされた柏田さんは、結婚を三年後に設定して、「結婚プロジェクト」をスタートさせた。「こんなに結婚で苦労するとは思わなかった。自分だけがうまくいかないことが納得できません」

 そこで「プロジェクト」として真剣に取り組もうとしているのである。「風水も取り入れてみました。良縁祈願に何度も行きました。右を見れば神様、左には仏様と、こんなにがんばっているのに、全然効き目がないんです」

 自分で、これはたしかだと思えることがひとつある。「男性次第で私が変わるというところは、もう乗り越えています。変わることはありません。だから、はじめから結婚を考えられない人とは付き合いたくないです」

 婚約者に手ひどく裏切られ、キャリアを棒に振ってしまった形の小笹さんも、「デートを重ねて結婚に至るというルートはもう想像できませんね。最後は結婚相談所か」と、思い定めている。それでも、「このままの私を受け入れてくれる人はいないんですかねえ」と、希望を捨てているわけではないけれど。

 男たちの恋愛幻想は、野放図である。これに対して、同年代の女たちには、そんなふわふわした気分はもはやなくなっている。


越えるべき、人生のハードル■

 SATCは、はじめ大胆奔放なセックス描写で話題になった。また、登場する女たちの華麗なファッションが、日本の雑誌などでももてはやされた。キャリー、サマンサ、シャーロット、ミランダ、この4人が、これでもかこれでもかと出ては消えていく男たちと織りなす恋愛模様に触発されて、自分自身の体験を想い、共感したり反発したりする。

 ところが、シリーズが終盤にさしかかると、厳しい現実が、女たちをつぎつぎに襲う。

 シャーロットは、離婚と再婚を経験し、必死の努力にもかかわらず不妊を克服できずに養子を迎えることになる。弁護士のミランダは中絶から変心して出産し、さらに義母の介護を引き受ける。乳がん治療のための抗がん剤の副作用で毛が抜けはじめて、これにカツラで対抗するのはマーケティング会社社長のサマンサである。

 柏田さんは言う。「私も婦人科系の障害でもうすぐ手術をすることになっています。日本でも、妊娠するにしても自然にする人は少なくなっています。男の人に頼らない人工受精の話もよく聞きます。仕事の後に行ける不妊治療の病院は満員だそうです。男のほうは、産休制度を利用して女に協力するとかのんきなこと言っているようですが、わずかな日数休んで義務を果たしたと思われてもねえ。自分の選択肢で産む女性が増えていますし、そうしないわけにはいかないでしょう。SATCのミランダがまさにそうでしたね」

 今回のインタビューに応じた10人の30代女性の多くが、このシリーズで感動した場面として挙げたのは、皮肉屋で人一倍自立心の強いミランダが痴呆の義母の身体を洗ってやるシーンであった。通いの家政婦マグダが、「これがほんとうの愛よ」と言いながら、ミランダにキスをする。

 これからの人生には、いくつものハードルがあり、それらをクリアしていかねばならないことを、このドラマシリーズでは、各所で暗示している。そのなかでも印象的なシーンである。

 「負け犬」女性が「オニババ」化に不安を抱くのも、生殖年齢をはじめとするハードルに気づかされるからである。そして考え込まないわけにはいかない。人生の時間は待ってくれようとはしないはずである。

 それにしても、パートナーあるいは社会生活の先達であるはずの男に期待できないことは、彼女たちにとって、大きな誤算にちがいない。

 そこで倉田さん、次のように強調するのである。「もっといい男がいないとはじまらないってこと。『もっといい男をつくれ!』と言いたいですね。遺伝子工学のある先生が言っていました。男がメス化してセックスを放棄しているから、女は人類学的危機を感じているんだって。たしかに、このごろの女性のファッションは異様に露出しています。こうして男の気を引こうとしている。女の危機感の表れだという。そうなんですよ、きっと」

 男たちは、これにどう応えるのであろうか。(完)

[2005.4.18.]
初出=『プレジデント』誌 2005年3月21日号


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