★ガーラ湯沢駅は、巨大総合スポーツ施設

 数年前のこと。若い人が「先日、東京へ行ってきました」と言うのを聞いて、「どこへ行ったの?」と聞き返したら、「だから、東京、東京駅です」と答えられて、どぎまぎしたことがある。

 ちょうど丸の内地区の再開発が進み、新しいビルのなかの飲食街などが、テレビや雑誌で話題になっているころであった。東京駅の周りで遊べば、それだけで東京で遊んだと思い込んでしまえるという風に短絡されていた。

 手軽で気軽な東京体験。新幹線で往復するだけで、東京の街を楽しむ感覚が享受できる。列車による身体移動が、新たな経験へ導いてくれる。「これが新しい東京」と実感できてしまう。

 初めて、スキーシーズン限定のガーラ湯沢駅へ出かけて、思い出したのは、このことであった。東京駅を出発する新幹線で1時間半あまり「トンネルを抜けると」突然に出現する、雄大な雪景色である。下車するし、白一色の世界にすっぽり包み込まれる。通路を抜け改札を出ると、そのままそこが、駅舎と一体となったスキーセンターというわけである。

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 受付けを済ませて奥に進むと、スキーとスノーボードのレンタルコーナー。さらに明かりを落とした廊下を進む。ロッカールームで身繕いを済ませると、すでに立派なスキーヤーではないか。つづいて8人乗りのゴンドラに飛び乗れば、途端に屋外に放り出される。見渡すと、そこはもうスキー場。レストハウスでゴンドラから降りる。あとは、扇型に展開するスキーコースから、初級から上級までのコースを選んで出ていくだけである。

 雪のなかで振り返る。すぐそこに東京の街があってもおかしくは感じない。不思議な空間感覚である。新幹線がスキー場に「横づけ」にされ、そのまま放り出され、結果、距離感がきれいにすっとんでしまっている。

 レストハウスのなかには、驚きがもうひとつ待っていた。館内のレストランでちょうど開催中の海鮮フェアである。カウンターに向かって、真っ白い制服の若い職人さんが、海鮮丼をつくっているではないか。その傍らには、「活魚料理」と大書きしたのぼりまで立っている。

 湯沢は山の中。しかもここはスキー場。それで海鮮とは? 謎かけではないけれど、考えてみれば、日本海はそう遠くない。列車で1時間あまりしかかからないであろう。海の幸もここまで簡単に届く。そして、お米は当然、同じ新潟県産のコシヒカリということになる。

 雪の只中で、茫然としつつ、東京が、そして日本海が、あまりに近々と感じられることに、なんだかうれしいような、恐ろしいような気がしたものである。空間が、ここまで圧縮されてしまうと、現実感が薄らいでいく。まるで夢のなかにいるみたいで、足元がさだまらない。

 スキーセンターには、スパもあることに気づいたのは、ふたたびゴンドラで戻ってきたときである。温泉やフィットネスプール、それに露天ジャグジーまで揃っているという。湯に浸かりながらスキー体験の総仕上げができるわけである。

 スキーヤーたちがゲレンデに出払って、閑散としている午後の一刻、スキーセンターにあるカフェレストランのテーブルに坐り、しばし休憩。店の奥からは、スキー靴の底で床を叩くらしいゴツンゴツンという音が、ときどき聞こえる。仕切り壁の各所に掛けた、小さなモニターから、間断なくポップスが流れ出している。

 「3、3、5。下3ケタ335のお客さん、東京ラーメンができました」と告げる、スピーカーの声が響きわたる。レシートのナンバーをアナウンスして注文の品の出来上がりを知らせるシステムなのである。

 巨大な総合スポーツ施設にたまたま駅もある。そう思えばいいのだ、と納得した。
2008.4.4.


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