
★四ツ木駅あるいは四つ木の町

京成押上線の駅名は四ツ木である。
界隈の地名は四つ木と書く。
どうでもいいようなことだけれど、ややこしい。
林芙美子が、『放浪記』のなかで書いた。
浮き世離れて奥山ずまい、…こんなヒゾクな唄にかこ
まれて、私は毎日、玩具のセルロイドの色塗りに通っ
ている。日給七十五銭也の女工さんになって今日で四
か月、……
大正12年である。
このとき彼女は、四つ木にある工場で働いていた。
昭和20年代まで、キューピー人形製造のメッカが、ここ。
一家総出で立ち働く、零細家内工業。
今は昔。
最後のセルロイド加工職人が、しばらく前にこの世を去った。
駅から徒歩10分の公園に「セルロイド工業発祥の地」の碑がある。
街の南を流れる中川沿いに博物館「セキグチ・ドールハウス」。
石造りの蔵に、キューピー人形がぎっしり。
焦点のさだまらない明かりを避けて、身を寄せる。
駅に戻る途中の割烹「玉子家」の名物は、産みたて玉子丼。
かつて、最後の職人と連れ立って、ジョッキのビールを飲んだ店。
3階の屋上に上がると、目の前を横切る高速道路が、視界を遮断する。
★2007.10.5.

この記事のURLを友人・知人に知らせる
│HOME│自由意志購読│フレームを外す│BACK│
|