★幼稚園年長さんと歩くサンフランシスコ
space

だれかに言うと、しばしば「えーっ」と、ひどく驚かれる。
「そんなことするなよ」とたしなめられることさえある。
幼い娘をお酒の場に連れていったことが、それほどの物議をかもすのか。
そのワケがいまもわからない。
その娘はもう30歳を過ぎた。
おやじと飲み屋に行くなど、ほとんどなくなっているわけだけれど。
小学生のころからよく、母親が留守の夕刻、一緒に居酒屋へ行った。
お酒を飲むぼくの隣で、彼女は肉ジャガや串カツを食べた。
夕食をしつつ父親と、日常ではない時間を共有する。
それも面白い経験だったのではと、勝手に思う。
彼女が幼稚園の年長組の夏、サンフランシスコへ一週間の旅を共にしたことも。
少し前にふたりで仙台へ一泊の汽車旅をして、ぼくたちは自信をつけていた。
そこで、さあ次は飛行機だということになったのだと思う。
サンフランシスコでは、安ホテルを基地に、街をあっちこっち。
居酒屋どころではない、長くて濃いふたりきりの時間であった。
まだ5歳。
坂がふんだんにある街を歩くのだから、相当に疲れるにちがいない。
公園のベンチや木陰の草地で休むと、すぐに眠ってしまった。
正体なく眠りこむ幼児を抱き上げると、ひどく重かった。
抱えて歩くぼくも若かったのである。
娘を是非連れていきたい店があった。
ケーブルカーで坂を上りつめたあたりのアイスクリームショップである。
チェーン展開しているので、他の場所にも店はある。
しかし、せっかく来たのだから、1948年に創業した1号店へ行こうと。
ぼくの勝手なこだわりに、なにも知らない娘は付き合わされたことになる。
彼女の大好きなイチゴの巨大なコーンをひとつ買った。
ぼくたちは、道端に座りこみ、代わる代わる食べた。
眼下にサンフランシスコ湾が見渡せる。
娘は、コーンを一心に口に運びながら、ぶるぶる震えていた。
夏でもこの街は、摂氏20度になることさえあまりない。
アイスクリームはおいしいけれど寒いのをなんとかしてよ。
彼女はそう思っていたかもしれない。
食べ終え、フィッシャマンズ・ウォーフへ下る坂道を歩いた。
唐突に、娘が言った。
「ねえ、歩いていると、おもしろいことがあるんだね」
ませたことを言うものである。
無理強いしているな、と後ろめたい気持ちの親は慰められる。
もっとも、もっと意地悪くも考えられる。
子どもたちが得意とするリップサービスではなかったかと。
ともかく、街を行く楽しさが少しでも伝えられたらそれでいい。
2008.1.21.


この記事のURLを友人・知人に知らせる
HOMEフレームを外すBACK