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★マンハッタンの食い逃げ達人

マンハッタンから、クルマで北上する。
ニューヨークが、史上2番目とか3番目とかいう大雪の直後であった。
それでも街のなかではだいぶ除雪が進んでいたけれど、いったん郊外に出ると、高速道路沿いの林や野は、文字通り一面の銀世界である。
すでに10時を過ぎた。
慌てて出てきたので朝食を摂っていない。
おなか空いたよ、と言ったら、アメリカが長い、同行の知人が、それじゃ、空腹を忘れるような話をしてやろうと言い出した。
ほんの数日前のタイムズ・スクエアでの経験だという。
知人は、有名なファースト・フードの店で、ハンバーガーを買ったそうである。
急いでいたから、店内で立ったまま食べてしまおうと、その場で、包んである紙を剥いた。
男がひとり近づいてくるのが見えた。
この男の外見が、おそろしく汚い。
髪は鳥の巣、髭は伸び放題。
この寒さに、破れた衣服の間から、垢だらけの肌が露出して、妙な臭いまで漂わせていた。
くっせえ!
知人は思わず顔をそむける。男はそのまま通り過ぎていった。
ほっとして、手にしたハンバーガーを口元に運ぼうとする。
なんということか。
まだ一口もしていないはずなのに、半欠けになり、がっぷり歯型までついている。
やられた。
例の男は、知人が顔をそむけた一瞬の隙をついて、食い逃げしていったのである。
「腹が立つよりなにより、すごい芸に感心したね。何度もやって腕を磨いてきたんだろうね」
たしかに、しばし空腹を忘れた。
というよりも、その至芸の瞬間が、スロウスピード・キャメラの映像のように、目の前に映し出され、それに気持ちを奪われていた。
結局、朝食はどうしたかって?
高速を下りて、小さな雑貨屋兼デリカテッセンに立寄り、ホットドッグをテイクアウトした。
真っ白い雪のなかで、これをこころゆくまで頬張った。
ここまでマンハッタンを遠く離れれば、食い逃げ男に襲われる心配もないわけだし。


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