
☆ボートに乗りたい、戸田の朝
中山道を歩き、戸田橋を渡ると、埼玉県である。
橋の上から、荒川土手に黒い自転車が2台並んでいるのが見えた。
乗り手はどこ?
気になって、自転車のところまで行ってみる。
いた。
土手の斜面に、制服の、高校生らしい少年がふたり寝転んでいる。
ウィークデイ午前9時半のハイスクール・ボーイ。
きみたち、のんきでいいよな。
川の水際まで下りていくことにする。
堤防のない川は楽しい。
水と自分を隔てるものがない。
このまま服を脱いで泳いでもかまわない気がする。
泳げないけど。
カモの類いなのか、水鳥が2羽、悠然と水面に漂う。
振り向くと、あの男の子たちが土手を這い上っていくところであった。
きみたち、いまさら学校へ行くんじゃないだろうな。
河原に小さな黒いバイクが1台。
黒いタイヤがふたつ、地面に放りだしてある。
バイクのハンドルのメーター部分はくりぬかれて、虚ろな眼のようである。
暴力が振るわれた痕跡。
土手下の道路に下りて、自販機でコーヒーを買う。
クルマが通る気づかいのなさそうな路上に立つ。
暑くもないのに乾いてしまった喉に、コーヒーを流し込む。
割烹着の老女が掃き掃除の手を止めて、こちらを眺めている。
大丈夫だよ、空き缶はゴミ箱に捨てるから。
道沿いの民家の裏手にまわると、そこが漕艇場であった。
戸田とボートの深い関係は知っているけれど、こうして実際に来るのははじめて。
満々と水を湛えた水路が、目の届くかぎりつづいている。
練習艇がひとつ、近づいてきてはUターンして去っていく。
ぼくにも、ボート乗せてくれよ。
声には出さないけれど、言ってみたい。

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