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著者=永井博子 編集・発行=WAVEtheFLAG 発行日=2004年4月30日 文字数=46,389文字 定価=400円 |
1987 年以来、マニラをベースにフィリピンの農村研究をつづける著者が、村々に出かけ、人々に会って、日本ではあまり知られることのない「もうひとつのアジア」を見聞する。タイでもなく、インドネシアでもなく、もちろん中国でもない。フィリピンという社会を吹き渡る風は、ときに心地よく、ときに暑苦しい。
このテキスト『フィリピン農村の文化誌:米とパイナップルと椰子酒』は、当サイト WAVEtheFLAG に、2002 年以来連載中の『マニラ発・アジアの向こう側から』の 1〜10 回に加筆し訂正を施したものである。
| 目 次 |
1 フィリピンで暮らすこと |
02 田を耕す人々 04 竹の子の生える村の子供たち 06 フィリピン医療事情と村からのクリスマスカード 08 女たちが土器を作りつづける村 10 NGO 顛末記 |
| 本文の書きだし部分・抜粋 |
毎年 5 月も末になると、そろそろ行かなくちゃ、みんな待っているだろうな、と思う。みんな、というのは、フィリピン中部の最西端にある州の、とある小さな村の人たちのことである。ここ数年、私はこの村のことを書いて、いわゆる研究というやつをやらせてもらっているのである。
フィリピンでは、4 月、5 月が夏に当たり、日中には気温が 40 度以上にもなる日が続く。学校も休みで授業がないから、村にでかけるのに何の不都合もないのだが、熱気がゆらゆらと立ちのぼるバス道や、木陰もなく炎天下に広がる田んぼのことを考えるだけで、気持ちが萎えてしまう。ぐずぐずしているうちに 5 月も末となるのが例年のことだ。
フィリピンのカトリック教徒たちの間では、5 月の終わりに、花を摘んで聖母マリアに捧げるというお祭りがある。常夏の国とはいっても、それなりに季節の変化はあり、5 月になると乾期もそろそろ終わり、雨の匂いがするようになる。その湿気を含んだ空気の中、夕方、野良仕事を仕舞いにする頃、子供たちが野をかけまわって、赤やピンクのハイビスカスや、肉厚の白い花弁を持ったマグノリアの花を集めてくる。蜜で指先を汚しながら、花を細い棒に挿しなおし、それを聖母の像に供える。夕飯が終わる時刻になると、近所の女たちが三々五々寄り合ってくる。小さな聖句を印刷した本が取り出され、朗誦するのは、いつも、用水路の向こう側の家に住むティタだ。めがねをかけて、流れるように読み始める。
かまどから立ち上る薪の匂い、かすかな音をたてながら燃える石油ランプの光、一日の労働の後に思い思いの格好で聖句に聞き入る女たちの影、そして、彼女たちの口元でけぶる葉タバコの香り。マニラという都会にいると、そういったものが無性に懐かしくなる。
訪ねていくと、彼女たちは、私にはまだよくわからない現地語で何か言いながら、なつかしそうに寄ってきて、そして、ああ、そうだったというように、首都マニラ周辺のことばであるタガログ語に切り替えてくる。私たちの間にある距離は、少なくとも、日本とフィリピンのそれではなく、マニラと彼女たちの村の距離であることがうれしい。彼女たちのために、私はなけなしの財布をはたいて、お祭り最後の日のごちそうをおごることにしている。豚1頭の丸焼きなら豪華なのだろうけど、近所の女性、それも 40 代から 60 代ぐらいの人たちの集まりだから、あまり胃に重たくないスパゲティとか、豚肉の醤油煮程度である。……
| 著者・永井博子のこと |
1987 年からマニラ在住。大学勤務のかたわら、2 人の子供の弁当作りに頭を悩ませる毎日である。趣味は自転車、「CARFREEMOM」とステッカーの貼ってある愛車で、毎年マニラ 50km ツァーに参加するマウンテンバイカーでもある。 共著に、『現代フィリピンを知るための 60 章』(大野卓司・寺田勇文編。明石書店)、Communities at the Margin (梅原弘光・ヘルメリオ・バウティスタ編。アテネオ・デ・マニラ大学出版局) などがある。 フィリピンでの日々を綴った「フィリピン風だより」を、 謄写版誌『あめつうしん』に連載中。 この作品の著作権はすべて著者に属します。購入したファイル・コンテンツは個人利用にとどめてください。コピーして第三者に渡す、ウェブ上に掲載する、プリントアウトして不特定多数に配るなどは、ご遠慮ください。 |
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