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著者=芝原三千代 編集・発行=WAVEtheFLAG 発行日=2005年3月26日 文字数=39,721文字 定価=400円 |
9.11 以降のアメリカとアメリカ人は、大きく変わったと言われる。しかし、どう変わったかについて、日本のメディアはきちんと伝えていない。アメリカ政府の変わり方はニュースになるけれど、アメリカ市民のそれは見えてこない。
このテキスト『アメリカと渦のなかで』は、ニューヨーク在住の日本人ジャーナリストが、セキュリティ、コミュニティ、ID など、市民生活の核心部分に焦点を当てて、変化の実相を描くものである。当サイト WAVEtheFLAG に連載中の「ニューヨーク発/アメリカという渦のなかで」の 1 回から 11 回までに加筆訂正した。
| 目 次 |
01 9.11
以後に発生した身分証明問題 |
02 小説『パスポート』のできるまで 04 コミュニティの狭間で遭遇する危険 06 アメリカ社会の「だれも言わない常識」 08 日米中を駈ける、誤解の連鎖 10 パスポートを持たない漂泊の民 |
| 本文の書きだし部分・抜粋 |
2002 年の 5 月 30 日はニューヨークに住む者にとって、何というか、感慨深い、一段落した日であった。グラウンド・ゼロ(ワールド・トレード・センターの跡地)の、気の遠くなるような残骸の撤収作業が終わり、セレモニーが行なわれたのだ。
朝 8 時半。やっと更新したニューヨーク市警察発行のプレスカードを首からぶら下げはしたものの、現場に行くかどうか迷いに迷った挙句、結局テレビで見ることに決めた。このプレスカードがあれば、地方からきたアメリカ人報道関係者でさえ入れない現場に入ることが許されるのだが。9・11 以降、ID(身分証明)に関してはいつも大問題だ。ちょっと人々が集まるセレモニーやイベントや取材の機会があるたびに制限、ID、身元調査。当然の事ながら外国人に対してはさらに厳しい。1 月 1 日のブルームバーグ・ニューヨーク市長就任式が思い出される。同行カメラマンの取材許可が降りず、クリアするのに非常に苦労した。思わず、「これって人種差別じゃないの!」とイラつく私に、「まあまあ、BBC 放送の人だってダメだったんだから」と逆にカメラマンがなだめる始末。国務省の管轄である外国人記者クラブも“プレスカードの更新が難しいので、問題のあった人は相談に来るように”とお達しを出した。
しかし、こういった ID 問題も然る事ながら、前日のニューヨーク・タイムズに載ったセレモニー施行予定の記事を読んだだけで胸が詰まるような感覚を覚えたのに、それをさらにライブで体験する気になれなかったのも確かだ。
恥ずかしいような話だが、9・11 以降、あれに関連した映像を見たり、遺体が発見されたり葬式が行なわれるシーンを見たり読んだりするたびにいつのまにか涙が出たり、胸がグッと詰まる。ワールド・トレード・センターの崩落を捉えたカメラマンたちや人命救助のために飛び込んでいった(“消防”士ではなく)“ファイヤー・ファイター”や警察は仕事とはいえ何と勇気があるのだろうとつくづく思う。先日、うちからほんの 2 ブロックの処でビル爆発があり、すわっ、とカメラとテープレコーダーを持って飛び出したが、現場に着いたら呆然と立ち尽くした。血だらけになって生きてるのか死んでるのか分らないボディを運ぶ救急車。ビルから転がるように出てくるのは血と埃で赤と黒のまだらになった人々。ショックでガタガタ震えたままストリートの縁に座り込んでしまっている人もいた。特ダネかもしれない光景を目の当たりにして、どうしようもなく“フリーズ”してしまい、次の瞬間、胸が苦しいような妙な感覚に襲われた。それ以来、今動かなきゃならないのに足が 100 倍のスローモーションになったかのようにしか動かない! という夢を以前よりたびたび見る。新たなテロかと大騒ぎになったこの事件は、結局地下に格納されていた揮発性ボンベが爆発した、という事で片付いた。
それにしても、私などはこの規模でこの状態なのだから、2 万坪近くあるワールド・トレード・センター崩落とそれにまつわる人命救助のさまざまなヒーロー・ストーリーは、何と意味のあることなのだろうと今さらながらに実感する。ちょっと安心したのは、9・11 以降こういった感情に襲われるのは私だけではなく本当にたくさんいるらしいことだ。ニューヨークのニュース専門のケーブル・チャンネル、ニューヨーク・ワンでは早朝放映するトーク・ショー形式のカウンセリングはさすがに打ち切ったものの、今でもテロ災害の精神的ショックに陥った人のホットラインは続けている。知り合いの日本人レストラン・マネージャーは新婚の妻が一時期痴呆症のようになり、本当に精神病になって治らないんじゃないかと真剣に悩んだ、とだいぶ落ち着いてから話してくれた。……
| 著者・芝原三千代のこと |
1989 年より東京とニューヨークを行ったり来たりし始め、在ニューヨーク(いつの間にか)10 年。ニューヨーク外国人記者クラブメンバー。かたわら米国の非営利団体ジャパニーズ・カルチュラル・エクスチェンジのディレクター。ディンキンス市長、ジュリアーニ市長、国連大使などより文化活動について感謝状を受けた。 この作品の著作権はすべて著者に属します。購入したファイル・コンテンツは個人利用にとどめてください。コピーして第三者に渡す、ウェブ上に掲載する、プリントアウトして不特定多数に配るなどは、ご遠慮ください。 |
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