★書評/『東京裏路地<懐>食紀行』

 近ごろの流行りはグルメ。見た目美しく、味わい微妙、お店の雰囲気ベリー・ナイス。フレンチ? イタリアン? はたまたタイ?
 しかし、本書に集められている料理は、まるでちがう。お値段手頃、一見グロテスクに見えようと不気味に感じられようと、一口すれば、旨さが全身に滲みわたる。店の内装がガタピシでも、店主がガサツでも、旨いものは旨いんだ。
 そう宣言してはばかるところがない、アンチ・グルメな著者ふたりが徘徊する、東京の街々。新宿、渋谷、池袋、錦糸町、亀戸、羽田、さらには公営ギャンブル場…そこには、戦後「焼け跡闇市」の遺風が受け継がれ、ひと味もふた味もちがう食となって残っているのだ、という。
 きのうきょうの「B 級グルメ」など及びもつかない、年季の入った食が続々登場する。現場中継風の会話を駆使して、臨場感溢れる食の現場が再現される。あまりの美味に感激のあまりか、酒の酔いにまかせてか、過激なご託宣もまた飛び出すのである。
 曰く、焼きそばの具はキャベツだけでいい、肉やエビは認めない。
 曰く、日本人にとっての本当のハムとは、ボンレスやロースではなくて、赤いプレスハムである。
 曰く、どじょう汁のどじょうは噛まずにまるごと呑み込むべし。
 あるいは曰く、日本人には焼き魚がいちばん、なんでも刺身にしたがるのはルール違反である。

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<蒲田駅東口「中華・和・洋食 石川屋食堂」の焼豆腐> より
オバチャン─ご注文決まった?
川上─ここは健康的に「焼豆腐」あたりから攻めてみるか。あとオレは「カレーラーメン」も食べたいな。それと「角煮」。
編集ギャル─どこが健康的? 食べすぎじゃない!
オバチャン─はい、焼豆腐おまちどうさま。
藤木─こ、これは……もっと貧乏くさいオカズを想像していたのに……。
川上─こんな豪華な豆腐ステーキが出てくるとは!? しかもキャベツが山盛りで……。これですよこれ! これが古き良き大衆食堂だよな。
オバチャン─昔の人はたくさん食べたから、ウチはなんでも量が多いのよ。
藤木─このタレというか、オツユは何ですかね、妙に美味いな。豆腐だけじゃこのうま味は出ないから……牡蛎油がちょっと入ってる?
川上─うん、そうじゃないかな。いかにも和洋中華折衷の食べ物って感じだよねー。

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 ともに年齢 40 代はじめ、闇市をリアルタイムで知るはずのない著者たちふたりが、憧憬する思いを胸に、日本が活気に溢れていた、昭和の「あの時代」への巡礼を繰り返すのである。
 ここで取り上げる食堂や居酒屋については、住所も電話番号も記されていない。「あんたらも、自分の足で探したらいい。それでこそ楽しいんだよ」という、断固としたメッセージが込められているようで、心地よい。

 

 

書籍データ
東京裏路地 <懐> 食紀行
藤木 TDC、ブラボー川上著
ミリオン出版発行、大洋図書発売
初版 2002 年 12 月 5 日
1600 円+税.


(『東京新聞』2003 年 3 月 2 日掲載原稿に加筆)
[2003.3.17.]

 

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