★自賛/「シンプルレストランガイド」石渡希和子


三鷹「たべもの村」にて(このイラストは、本サイトのための描きおろし。本のなかにはありません。)拡大

 私が初めて玄米ご飯を食べたのは 15 年前。知り合いがやっていた玄米食のレストランでだった。知り合いなので「まずい」とは言えず、実際「まずい」とまでは思わなかったが、「美味しい」ってほどでもないな、というのが正直な感想だった。「やっぱり主食は白米でしょ」というのが結論だったように思う。

 ところがそれから月日がたち、現在私の主食は玄米。白米を食べないことはないが、たいていは自分で炊いた玄米で、外食するときも玄米を出す店に行くことが多い。玄米菜食を基本的に信じ、野菜は無農薬有機野菜を心がけ、調味料も厳選、マクロビオティックでいうところの「身土不二」「一物全体」という、地場の旬のものを食べ、食材は丸ごと食べるのをヨシとする、という考え方もかなり納得してる。こういう心がけだと自然と思想は「環境保護」「物質文明への疑問」みたいなことになっていき、もちろん原発には反対、生き物を愛し、ゴミは減らそう、みたいなことになって、ついでにシャンプーや洗剤は石鹸、と。強引なもってき方ではあるけど、まー、ある意味、自然にそうなる。

 ナチュラル「系」のヒト。それが私。と、とりあえず自ら言っておこう。でも、とりあえず、に限らせていただく。そんなレツテルをベタッと名札のように張り付けられたら大いに反発する自分でもある。

 玄米菜食とは言われてもいいけど、マクロビオティックとは言われたくないよ、という気分はある。味噌汁の出汁に「煮干し」を使うのは子どもの頃からのうちの決まりなのだから、それを否定する考え方なんかまっぴらである。生き物を愛し、肉はほとんど食べないのは事実だけれど、「知能が高いクジラを食べるな」論には疑問を感じる。こないだ仕事で行った九州では馬肉を美味しくいただいていた自分。美味しい馬肉は実に美味しい、と声に出して言う。そして、インスタントラーメンもたまには食べる。もうすでに、「あんた玄米菜食ですらないじゃん」という反論を浴びることを予想しつつ、「多くの矛盾を抱えながらの玄米菜食ってことで」な私は、「食べることは思想だが、同時に思想なんかではない」ということが、唯一はっきり言えることかなぁ、と思っている。

 「安けりゃいい」「早くできりゃゃいい」しか頭になく、思想も何もなくて食べることは、卑しいことだと思っている。そういう意味では食べることは思想だ、と思う。ただ、思想にたぶらかされたくない、というのがある。マクロビオテイックの考え方に大方共鳴しても、「味噌汁の出汁は煮干しでとった方が私には美味しい」という実感は変わらない。

 だから、「食べることは思想だが、同時に思想なんかではない」というのが、唯一はっきり言えることだ、と思えるのだ。

 去年の秋から取材を始めて、この5月末にようやく刊行にこぎつけた本、「シンプルレストランガイド」は、私がもともと薄々持っていたこういう考え方を、より強く感じさせてくれる仕事になった。

 取材した東京、近県の 100 軒以上のオーガニック、スローフード、マクロビオテイック、ベジタリアンのレストランは、どこも真剣に思想を持って食に取り組み、かつ、押し付けがましくなく柔軟な姿勢でお客を迎える店ばかりだった。多くのオーナーが、自ら体を壊した体験があり、それをきっかけにオーガニックやマクロビオティックやベジタリアンを試すようになったということは興味深い。自分の体を実験台として食事を考え、その結果として、良いと実感できたことを店にした例がかなりある。そして重要なのは、きちんと長く維持できている店は、自分の体を通して固く信じていった思想に対して、決して頑なにならずに、それをなるべく広く人に進めるための工夫を凝らし続けているということだ。思想に凝り固まり過ぎると、人は引いていく。でも、思想の中の譲れない部分を大切に広めていきたいがゆえに、緩やかに柔軟にアピールする方法が求められる。それをやっている店が確実に生き残っている。

 私が最初、たいして美味しくもないと思った玄米を今は主食にしているように、何かの本質をわかるには時間がかかると思う。その時間をかける場所が、あきらめずにあちこちに存在していてくれることが大切だと思う。

 そういう意味で、とても貴重なレストランガイドだと自負している。原稿も一部書いているけれど、今回はイラストレーターとして、すべての店のご飯をイラストで書いている。「絵だと写真より美味しそうに見えるのはなぜでしょう」と店の人に言われたことが一番嬉しい。全国版で作りたかったが力量が足らず、東京と近県に限られたガイドブックであることが残念だけど、この地域で活用していただけそうな方は、ぜひ手に入れていただきたい本です。どうぞよろしく。


書籍データ
『シンプルレストランガイド』
イラスト=石渡希和子 編=七つ森書館
七つ森書館刊
1400円+税
2003年5月25日初版

この本を購入したい方は、本サイトの「東京堂」をお訪ねください。
http://www.edagawakoichi.com/tokyodo.html



[2003.6.9.]


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