| ★書評/『路上派遊書日記』 |
子どものころは、わくわくしながら本屋さんに入った。本棚を見上げて、背表紙の文字を追いかけながら、本の世界に迷い込む。この瞬間が楽しくてたまらなかった。
本と出会う歓びが、いつのまにか薄れてしまった。書店もコンビニも変わらない。実際、コンビニにも本は並んでいるわけだし、ネットで簡単に注文できてしまう。
読書への熱の入れ方も、昔とはすっかりちがっている。仕事の必要から飛び飛びにページを繰って情報を探したり、暇つぶしにぼんやり「眺め読み」してみたり。
文章を書いて生計を立てている身として、恥ずかしい言い方になるが、しばらく前、昔のように耽溺して読みたい、こだわりをもった読書がしたい、と思いはじめた。
そこで、インターネットに骨の髄まで侵食されてしまってはもはや無理かと疑いつつ、気を入れて、ともかく急がずに読むことを心がける。おかげで、精読の喜びが少し戻ってきた。使われていない坑道を久しぶりにトロッコが走るように、頭のなかの、忘れられた回路が甦る気がする。
こうして、たとえば、いつも気にかかっているアメリカ作家アン・タイラー作品を、ペーパーバックでいくつかつづけて再読した。すると、まだ読んでいな いものも探してみようかという気持も湧いてくるのである。本を一生懸命探しまわった、あの情熱にも、もう一度手が届きそうである。
本と向き合って付き合おう、本の世界を自分の生活にもっと引き寄せたい、そういう思いを後押ししてくれる。それが本書である。ありがたい応援歌に聞こえる。
著者は「不忍ブックストリートの一箱古本市」の仕掛け人として知られるライター・編集者で、無類の本好き。ブログに発表しつづけている日記のなかから、昨年分の3分の1ほどをまとめて、この形にしたという。
「本を買い、本を読み、そして本と遊んでいる様子」が、延々と、いかにも楽しげに、幸せそうに書き綴ってある。「遊書」を盛り上げるのは、多彩な友人知己の面々、おいしいにちがいない飲食(主にB級)、あるいは、心地よさげなライブハウスなど。
本と深く広く付き合えば、生きていることが、もっともっとおもしろくなるよ、と著者は語りかけている。
年寄りが多くたむろする図書館で、思わぬ放屁連発に遭うくだりなど、笑いが止まらなくなった。人と本の話、満載。
★2006.12.1.
■■書籍データ

『路上派遊書日記』
著者=南陀楼綾繁
右文書院
2200円+税
2006年10月20日初版
![]()
この記事のURLを友人・知人に知らせる
│HOME│自由意志購読│フレームを外す│BACK│