★書評/『ペナント・ジャパン』

 アメリカ映画で、学生の部屋に、学校名の入った細長い三角の旗が、誇らしげに飾ってある風景をよく見かける。この旗がペナントで、日本でもスポーツ競技を通じてお馴染の小道具になっている。しかし、この本の著者が探しまわったのは、日本で独自に発展した「観光ペナント」のほうである。

 房飾りなどを付けた三角布に、絵や写真と、多くは土地や名所の名前をあしらって、観光記念の品として売られている。いや、いまはほとんど見かけなくなった。土産物屋の店頭からほとんど姿を消している。1970年代に一世を風靡しながら、80年代とともに消えていった、懐かしき昭和の「風物」である。

 ここには、北海道から沖縄までのご当地ペナント100点が集合している。ラメ入りあり豪華ゴブラン織りの布地あり、さらには、アラビア風のローマ字あるいはアメリカのコミックを彷彿させる構図などなど、さまざまの意匠、絵柄の旗が、じつに美しい。つい見入ってしまう。

 なぜ、こんなに輝いて見えるのかと不思議に思う。旅をすることに一生懸命で、風景に素直に感動した自分自身を、ペナントの向こうに見出すからではないか。大阪万博の前後から、親たちは子どもを連れて盛んに家族旅行に出かけるようになった。また、若者たち(北海道カニ族!)は放浪と漂泊(デラシネ!)を生き甲斐とした。あのころはみんな、遠くへ行きたがったのである。

 記念にこの旗を持ち帰り、あるいは親戚知己からお土産にもらったりしては、画鋲で壁や天井に張り、楽しい記憶を反すうしたり、まだ見ない景色に思いを馳せたりした。とくに男の子にとっては、子供部屋の飾りに欠かせなかった。

 73年生まれの著者は、その時代にわずかに乗り遅れた。そこで、ペナントに対するあこがれと、そこに込められた、たくさんの人の思い出を辿らせてもらっている気がするという。

 三角旗のひとつひとつが、いまにもページから飛び出してきそうに錯覚する。そして、かつて堪能した「美しい日本」の風景、さらに、それらを一緒に眺めた人たちのことまでも鮮やかに甦ってくるのである。

 なんと罪深くも味わい深いペナントではないか。

書籍データ
『ペナント・ジャパン』
著者=谷本 研
PARCO出版
1,800円+税
2004年4月27日初版


[2004.7.9.]