『写真集 K市』は、気持ちのいい写真集であり、K市もまた、気持ちのいい町にちがいないと思わせてくれる。K市とは、「開かずの踏み切り」で全国に知られた東京都小金井市のはずなのだが。その踏み切りの写真も、もちろんある。赤く点滅する信号機の向こうの空に、白いジュエルのような月が浮かんでいる。月に見とれているにちがいない写真家の姿まで見えるようである。この本の著者である写真家の横田眞一郎氏についてはこれまで、K市を流れる野川周辺を撮りつづけた美しい写真たちの数々が印象深い。この本にも野川は何度か登場している。しかし、ここに展開するK市は、別のものになっているみたいである。
被写体には多く、自然が選ばれている。自然を撮った写真には、たいていの場合、一も二もなく、美しいなと思うし、きれいだなと感じ入るけれど、それで終わってしまうことが多い。たとえば絵葉書のなかに閉じこめられた自然は、そのようにして消費される運命にあるし、それでいいのかもしれない。ただし、ときたま、写真に引き込まれて、自分がその一部であってもいいように思い込むことがある。霧の写真を眺めていて霧の粒子が身体に貼り付くのを感じたりもする。そうなると、ぞくぞくするくらいに心地よい。この写真集のなかの写真たちには、その気分があると思う。
たくさんの写真が収められているけれど、とくに魅かれるのは、樹木や水、草や花が、光の作用で躍りだす様子を撮ったものである。その現場を、この写真家は傍観するのでなく、自分もそこに入っていきつつ、シャッターを切っている。この人もまた、光によって躍らされているのだと思える。なかに、薄い光を受けて盛り上がる水面をとらえた一枚がある。水がまるで写真家を呑み込もうとしているかのような切実感がある。
東京多摩地域の地域雑誌に『武蔵野から』というのがある。その発行元が、この本の版元でもある。主宰者の野口由紀子さんによると、中央線の高架化工事で、K市は大きく変わろうとしているという。いまは開かずの踏み切りになっているところも含めて、線路が地上を離れることによって、南北へ抜ける道が50もよみがえる。それらはかつては農道だったところで、復活した農道をどう活かすかを思案中だと。新しくて古い道たちは、失われた自然を思い出させるだけでなく、それらの自然がもう一度現実のものになるチャンスをももたらすということであろうか。
都市の中の自然と言うけれど、この写真集では、都市はすでにして自然に呑み込まれてしまったかに見える。両者の関係が逆転している。K市は自然の中の都市として息づいているかに思える。だからきっと、小金井市ではなくて、K市でなければならないのであろう。
★[2004.10.8.
■■書籍データ
『写真集 K市』
著者=横田眞一郎
発行=武蔵野から(〒184-0004 東京都小金井市本町5-7-16 TEL 042-385-7025)
1,429円+税
2004年9月20日初版

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