| ★書評/『ケネディを殺した副大統領』 |
ケネディ大統領の暗殺の黒幕は、当時の副大統領ジョンソンだったという説は、別に新しくはない。事件当時から囁かれていたことで、その囁きは、この四十年あまり絶えることなくつづき、陰謀理論の論者たちの好餌になっている。
しかし、本書が、いまこの時期に刊行される(原書は2003年)ことには、格別の意義がある。現在のアメリカの政治風景と、暗殺当時のそれを重ね合わせて見られるからである。
まず、現大統領のブッシュは、父親の元大統領同様に、テキサス石油資本という強力なバックを持っている。
さらに、副大統領のチェイニーが、就任前までハリバートン社を率いていたことも、周知の事実である。この企業は、石油サービス・建築企業だが、ペンタゴンと深く結びついていて、現在のイラク「復興」に中心的な役割を果たす。その本拠が、テキサス州ヒューストンである。
正副大統領ともに、テキサスの金力の上に正しく載っていると言える。原書と邦訳本とでは、タイトルとサブタイトルとが、ひっくりかえっている。邦訳で「その血と金と権力」(BLOOD, MONEY & POWER)が副題扱いになっているが、原書では、こちらがメインタイトルである。
サダム・フセインを倒したブッシュやチェイニーと同様に、テキサスに根を張って「金」を執拗につかみとったジョンソンは、ケネディを「血」祭りに挙げることで、最高「権力」を手にしたという筋書きである。これで、アメリカ人ならすぐにピンとくるであろう。
本書には、テキサスの社会的土壌と、そこに絡みあう人間たちの姿が、丁寧に描き込まれている。
暗殺の実行部隊長として名指されているマック・ウォレスとジョンソンは、貧しい生い立ちというところがよく似ている。テキサスでは、貧困は犯罪ででもあるみたいに忌み嫌われる。そこで、金をつかみ権力を得て上昇していくことに、だれもが必死になる。テキサスには、それを可能にしてくれるチャンスも「資源」もある。
これを阻もうとする障害はなんであれ、全て敵と見なす。それが大統領であっても。こうして暗殺は起こった。殺しの費用を払ったのは、石油富豪たちだと、著者は述べている。
もうひとつ注目すべきは、著者自身の背景である。バー・マクレランは、暗殺事件の後に、ジョンソンの顧問弁護士になった。同僚から、事件の「真相」を聞かされて、この事件を調べはじめたのだという。
彼のバイオグラフィーに当たると興味深い事実に出合う。息子のスコットは、現大統領の報道官で、その姿は、日本でもテレビニュースでおなじみである。また、もうひとりの息子マークも、行政のなかで巨大な権力を有する食品医薬品局の局長をしている。ブッシュ政権に深く関わるファミリーであることが、よくわかるであろう。
ジョンソンは民主、ブッシュは共和だが、党派のちがいは、あまり関係ない。とりわけテキサスでは、無関係だと断定できる。金になるかならないか、この一点が判断の基準になる。しかも、すべてはオフレコで進行するのが「テキサス式のやりかた」である。その詳細が、弁護士の仕事あるいはロビー活動など、さまざまな場面の臨場感溢れる描写によって明らかにされる。
ケネディ暗殺は、テキサス資本がワシントンを支配するための、踏み出しの第一歩だったかもしれない。著者自身に、その意図があったかどうかは別として、この著作もまた、テキサスの力の証明になっている。そんなに強い連中なら、ケネディが暗殺されてもおかしくないかと、妙な納得の仕方をしてしまうのである。
★[2006.2.13.]
■■書籍データ
『ケネディを殺した副大統領』
著者=バー・マクレラン
訳者=赤根洋子
文藝春秋
3,400円+税
2005年11月25日初版

![]()
この記事のURLを友人・知人に知らせる
│HOME│自由意志購読│フレームを外す│BACK│