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2008.2.1.
☆書評/『若冲になったアメリカ人』

 アートとの素朴で真摯な共鳴。ジョー・プライスというアメリカ人美術収集家について感嘆するのは、これである。この本は本人とのインタビューをまとめたものだが、どんな問いに対しても、同氏がつねに真っ正面から答えているのが、印象的である。

 「だれが描いたかが重要なのではなくて、私が気に入った絵が私を幸せにする」というスタンスの人物には、作品の美しさや素晴らしさのワケを客観的に語るなど、とてもできないにちがいない。

 日本美術のなかでも、評価の低かった江戸期のものを「発掘」した功績が高く評価されるが、その発端は、フランク・ロイド・ライトにある。この名建築家に連れられてマンハッタンのの古美術店へ行き、伊藤若冲の「葡萄図」と出会ったのである。老齢のライトを止宿先のホテルに送り届けた後、店にとって返し、「ただ欲しくて」買ってしまった。値段も正確にはおぼえていないらしい。

 この出合いから、世界的な若冲コレクターへの道を歩むわけである。しかし、いかにその功績を讚えられるとしても、若冲の大作の前でそっと涙ぐむ、純な心持ちを失うことはない。

 近年、日本でもアート・ビジネスに対する関心が高まっている。テレビ番組の「鑑定団」人気もおおいに影響している。だれでもがひとつやふたつはお宝を持っているかのような安直さは、たしかに、かつては遠い存在だったアートを身近なものにするきっかけにはなる。

 しかし、アートの売り買いに関わる人間には、アーティストに匹敵する繊細さと感受性が求められる。プライス氏はその典型で、本書のタイトル「若冲になったアメリカ人」には、そのあたりが表現されているのではないか。時代を越えて、若冲という巨人の奥深くに入り込み、一体化してしまう。こうして獲得した洞察力と気力に頭が下がる。

 しかも、一方で、若冲の作品をタイルにコピーして、自宅の浴室に再現するという、旺盛な遊び心も発揮するのである。このバスルームで、本人とツーショットの写真におさまった経験を持つ、気鋭の美術史家が、本書のインタビューアを務めている。それだけに、スーパーコレクターの多面的な魅力を十二分に引き出している。

 日本人の妻、エツコさんによれば、顔まで若冲に似てきたというプライス氏、今後どこまで若冲になりきるか?
2008.2.1.

書籍データ
書籍表紙
書評/『若冲になったアメリカ人』
著者=ジョー・プライス、山下裕二
小学館
1890円(税込み)
2007年6月初版


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