★書評/『アマゾン・ドット・コム成功の舞台裏』
「アマゾンで買う」と言えば、「インターネットで本を買う」と同じ意味になる。ネット書籍販売の最大手アマゾン・ドット・コムは、創業10年を迎えて健在である。書籍以外にも手を伸ばしている。ただし著者の場合、2001年まで5年間、上級編集者として勤務した後、幻滅して去った。
新刊本の書評や紹介記事を執筆し、書き手とのインタビューをまとめるのが仕事であった。本の売り上げをあげるためのコンテンツの提供だが、同時に、世界規模のネットを通じ「より良い本」を見出し広く知らせたいとの思いがあった。だからこそ自分は編集者なのだと。
やがて業績の伸びが優先され、編集者は減らされ、冷遇される。本書は、社内の人間模様を淡々と描くことにほとんど終始し、その結果「ビジネスもの」と一線を画すヒューマン・ストーリーに仕上がっている。
アメリカでは18世紀の建国以来、ユートピアへの期待と幻滅が繰り返されてきた。それはアメリカの歴史そのものとも言える。最新のユートピアがインターネットである。世界を覆う情報システムが、地球をひとつの村みたいに親密な場所にすると信じられた。ところが……。
アマゾンの退職を間近に控える著者は、西海岸の本社から一時マンハッタンに来ていた。アッパー・イーストの屋外レストランで食事をしていると、目の前を冷蔵トラックが列をなして通り過ぎていく。それらは、この日の早朝に起こった同時多発テロの犠牲者たちの遺体を運ぶためのものである。
この1年半前には、IT企業が多く上場する株式市場ナスダックが破滅的な株価の下落を記録していた。ネット・ユートピアの夢が消えた後に、9.11が追い討ちをかけたと言える。さらに1年半後の03年3月には、イラク侵攻がはじまる。
危機を乗り切っていまに生き残った巨大ネット企業からこぼれ落ちた編集者。その回想記は、アメリカの夢の喪失の現場レポートでもある。
〈要熟読箇所〉
「……インターネット・ブームとその崩壊について、アイロニーに対する断熱層を持たずに書くのは難しい。それがなければあまりにも無防備な状態となり、物語の冷たさに屈し、震えが始まり、ペンを置くことになるだろう。実際には、約五年にわたり、普通でない状態が続いた。失敗する人は一人もなく、お金は店から降ってきた。明らかに不合理な予測、たとえば会社の規模と収益に関するジェフ(アマゾン創業者、ジェフ・ベゾス)のたわ言みたいなものが、いつのまにか本当のことになった。実り豊かな日々は、貧しかった時代の記憶を忘れさせた。それは多くのアメリカ人にとって、ミレニアムのリボンできれいに包装された、あらゆるハッピー・エンディングの源だった。そして僕らがそういう状況に慣れてきたときに、終わりが訪れた。天からは一セントも落ちてこなくなり、カーゴパンツ姿の夢想家はいなくなった。ほぼすべての人が失敗を味わう羽目になったのだ」(本書76ページ)
★[2005.7.25.]
■■書籍データ
『アマゾン・ドット・コム成功の舞台裏』
著者=ジェームズ・マーカス
訳者=星 睦
インプレス
1,800円+税
2005年7月1日初版
