★書評/『リングサイド』

 プロレスの原型は19世紀半ばのアメリカ東北部で盛んに行われた格闘技にあるという。スタンディングの体勢から入る「つかみ合い」で、南北戦争中、兵士たちの気晴らしにもてはやされた。

 戦争が終わり、アメリカ各地へ散っていく帰還兵士たちによって、さらに広く伝わり根づいたという。戦争はしばしば、新しい文化の源になるけれど、ブロレスの場合もそうなのである。

 現代に至るまでの名選手たちの活躍をちりばめながら、プロレス業界の歴史を、小気味よく一気にまくし立てる。それが本書。(カタカナが多すぎるけど。)

 懐かしいルー・テーズもプリモ・カルネラも、そしてハルク・ホーガンも、当然登場する。

 しかし、80年代はじめ以降、レスラーよりも、プロモーターたちの戦いのほうに力点が移っていく。彼らが争うのは、ケーブルテレビの番組放映枠であり、有力選手を支配下に置こうと暗闘に明け暮れる。

 試合の演出はあくまで派手になっていく。直前に花火を打ち上げたり、観客席を明るい照明で照ら出したりするのも、テレビ画面の内も外も沸き立たせ、興奮を極限まで盛り上げる戦術として生まれたわけである。

 有刺鉄線や画鋲、軽火薬を用いる、流血のファイトスタイルも育ってきた。これについて、アメリカ人レスラーが日本に来たときに、日本人とくに大仁田厚(日本のプロレスラー 元参議院議員)から大いに感化されたと、著者は名指しで書いている。これには、注目すべきであろう。

 ブロレスは、アメリカ文化から出て、日本の文化にも入り、今や両者の混合体と化しつつあるかのようである。

 日本もようやく本格的な衛星テレビの時代に入ろうとしている。メディア状況が大きく変わる節目のいま、低迷するプロレス人気に変化の時が訪れるのかどうか。まことに興味深い。
2008.8.8.

書籍データ
表紙
『リングサイド』
著者=スコット・M・ビークマン
訳者=鳥見真生
早川書房
1890円(+税)
2008年6月初版


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