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2008.9.18.
☆書評/『ヘミングウェイの酒』

 ヘミングウェイと酒は切り離せない。酒のほうで辟易するぐらいに、この作家は、酒を愛したらしい。その愛がいかに深く、いかに広大であったかを書き記したのが本書である。

 作家の作品、あるいは伝記、回想録などを渉猟し、酒に関する記述を集めている。さらに作家の愛したバーなどを実際に訪ねる。酒やカクテルそのものについての調査も怠らない。

 そのうえで、ひとりの偉大な酒飲みとしてのヘミングウェイのイメージを立ち上がらせる。想像力を控えめにして。作家に対する深い共感を伝えるエッセー集に仕上がっている

 同じ酒飲みとして、このおやじ、いったいどんな酒飲みだったのか、どんな酒をどんなときにどう飲んだのか、そのあたりの詳細から目が離せない。

 自分よりはだいぶ先輩ではある。しかし、世代を越えて付きあえるのが、酒と酒飲みでもある。

 読み進むうちに、なんだかヘミングウェイ先生と、同じカウンターに向かっている気分になってくるから、不思議。それも酒飲みのよしみとしておいてもらおうか。

 ――先生、ひとつ相談がある。当方、若いころはよく飲んだウィスキーから、最近遠ざかっている。あの懐かしい水割り、おいしい飲み方を伝授されたし。

 ――よしよしご同輩。それではお望みのとおり、わたし、ヘミングウェイ自身が「発明」した水割りを紹介しよう。まずはグラスにウィスキーと水を注ぎ、それを冷凍庫に入れる。このまま3〜4時間も待てば、水だけが凍ってくれる。そこで別のグラスに移して飲むのだよ。

 なんと贅沢な。これを試した某編集者は、山奥の渓流が突然にウィスキーに変貌する錯覚に襲われたという。

 昔の友人が久し振りに訪ねてきた夕べなど、冷凍庫にヘミングウェイの水割り(オン・ザ・ロックと呼ぶべきか)を並べて、昔語りをするのなど、なかなかではないか。

 よく知られるように、ヘミングウェイは、生涯を通じて、死の想念につきまとわれていた。それ故に戦場ヘ向かい、冒険を試み、その渦中から、死の姿を凝視しつづけた。

 その彼の孤独な生に、つねに影のように随伴したのが、酒であった。本書の著者の穏やかな筆致の奥にも、それを感じることができる。★

 (初出「団塊パンチ」08年10月号)
2008.9.18.

書籍データ
表紙
『へミングウェイの酒』
著者=オキ・シロー
河出書房新社
1600円(+税)
2007年12月初版


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