★書評/『新宿歌舞伎町交番』

 教師がただの給与生活者と化して、日本の教育はダメになったとも言われる。いまはまた、立身出世がしたくて、なるべく無難な勤務に就き、失点をしないことばかりを考える警察官が増えているらしい。
 近年、犯罪検挙率が「目を覆うばかり」低下した要因のひとつが、そんな警官が受持つ無気力な交番にあると、著者は指摘する。
 出世より仕事が好きで、犯罪に真っ向から立ち向かう心意気の、劇画に出てくるみたいな警官はもはやいないのか。
 そんな熱血警官たちだったら、悪の巣窟、猥雑の極致として知れ渡る新宿歌舞伎町の交番にいるぜ、というわけで、彼らの奮闘ぶりがここに綴られることになった。
 ドロボーやギャングや、あるいはポルノ業者などがはびこるのは困りものである。しかし、この街には、そんな連中がいつもうようよしている。善悪をウンヌンしている場合ではない。「欲望の底なし沼」の現実を認めたうえで、これに立ち向かう。だから、歌舞伎町交番の警官たちは徹底して明るい。
 たとえば、覚醒剤所持容疑の男を交番に連行する──。小柄な警官が大男の容疑者を締め上げようとして、逆に振り回される。これを見て、大木に蝿がとまったみたいだと、同僚たちは腹を抱えて笑い出す。笑いものにされて抗議する若い警官に先輩は言うのである。「おもしろかったなあ。いいじゃないか、たまには人を楽しませて。見物人も喜んでたよ。交番の余興みたいなもんだ」と。
 そんな警官たちは、勤務明けには、「ションベン横丁」でビールを飲み合い、宴会があれば、演歌の替え歌で「歌舞伎町の心意気」を熱唱する。ふだん目にするお巡りさんとは、だいぶ印象がちがうのである。
 しかし、危険度日本一の街を包む闇は限りなく深い。最近は中国人犯罪組織の跳梁に任される歌舞伎町。異様に明るい警官は、警察の無力を象徴しているとも言えるのだが。

 
書籍データ
新宿歌舞伎町交番
久保博司著
講談社
1,600円+税

(『東京新聞』2003年5月11日掲載原稿に加筆)
[20036.4.]


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