1970 年代はじめのカリフォルニア州バークレーには、30
を越える「フード・コンスピラシー」の組織があった。日本語にすれば「食物陰謀」である。
平たく言うと食料品の共同購入組織で、農民が直接販売している市場からまとめて買う。こうしてスーパーチェーンに支配される食品流通システムに穴をあけようと呼びかける、小さな「陰謀」であった。
バークレーが、カウンターカルチュアの聖地だったことはよく知られている。そこからは、エスタブリッシュメントを撃つ、さまざまの陰謀が生まれ、実行された。
一方、ウォーターゲート事件という、エスタブリッシュメント内部の陰謀が発覚するのも、このころである。前者のような良性の陰謀と、後者の悪性のそれとがせめぎあったのが、70
年代前半ということになる。
カウンターカルチュアは、「悪性陰謀」へ人々の目を開かせるエンジンの役割をも果たした。カウンター(対抗)するためには、相手の非を暴き、弱点を突くことは必須である。
この本『陰謀の世界史』には、中世の置き土産であるフリーメーソンなど昔々の陰謀にはじまって、主に 20 世紀のさまざまな陰謀や陰謀説が語られている。陰謀の百科事典であると同時に、それぞれの間の相関関係を明らかにする系統図でもある。それは、世間の常識や良識を打ち砕く爆薬の役目も果たしている。
「<陰謀>が文化となり、日常会話に入ってくるようになった」20 世紀後半。この時代の叙述には力がこもっている。
著者自身詳しい解説をしている映画『陰謀のセオリー』(メル・ギブソン主演)がつくられたのは 77 年である。エイリアンが人間を誘拐して、人類と宇宙人のハイブリッドをつくろうとしているといった、壮大な宇宙陰謀説が広まりだしたのが、ちょうどこのころであった。
陰謀はたしかに「文化」となったけれど、陰謀を盛んに企てたカウンターカルチュアは急速に力を失った。エスタブリッシュメントの足元を掘り崩していくエネルギーは消える。陰謀という麻薬に溺れ、夢中になっているうちに、対抗するという自らの役割を忘れたかのようである。
いっぽう陰謀のほうは、ますます元気になっていく。
「すべての陰謀はつながり、絡まりあっているので、互いに関連し、分けるのがむずかしい」と、この本のなかでも述べられている。さまざまの陰謀説を編集しそれぞれのつながりをつけながら、流布させつづけている「総元締め」がどこかにいるのではないであろうか。
さらに言えば、「良性」をぶっつぶすために、「悪性陰謀」説を強力なものに仕立てあげて、どんどんぶつける。そこには、一筋縄ではいかない悪意が渦巻いているという次第。
つまり、本書に描き出されている陰謀オンパレードの背後に、もうひとつ、壮大な規模の陰謀が控えているという視点である。そもそもこれを隠蔽するためにこそ、あらゆる陰謀説に磨きがかけられたのだと。
このごろの陰謀説はそれぞれにつながりあっているだけでなく、ほとんどがアメリカ製、あるいはアメリカが舞台になっている。核心にある陰謀の性格も、したがって、自ずと明らかになるであろう。
90 年代から人口に膾炙するようになったグローバリゼーション、つまり、アメリカによる地球支配である。そこを到達点として「陰謀の世界史」は編まれているのではないかという見方、読み方もできるにちがいない。
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海野 弘著
『陰謀の世界史-コンスピラシー・エイジを読む』
46判・559ページ・3200円
文藝春秋
4-16-358770-5
(『週刊読書人』02年10月4日号掲載原稿に加筆)
(2002.10.7.)