■広島市の寺町に真光寺という浄土真宗の寺があるそうである。ずいぶん古い寺らしい。しかし、どのくらい古いかは、この際、あまり関係ない。
■アメリカ軍が広島に原爆を落とした、その爆心地から至近距離に、この寺があったし、いまもあるということのほうが、重要である。
■この「大量破壊兵器」で、数十万の人が生命を落とした。そのなかには、この寺の住職とその家族たちの大多数も含まれていた。住職の息子は、当時、京都の大学にいて、難を逃れた。後に彼は、同寺の住職を継ぐのだが、そのまた息子のひとりに、不肖の子(失礼)がいる。それが、この映画の監督、青原さとしということになる。
■青原は、父・住職の晩年にキャメラを向け、父の学生時代を知る人々を訪ね、寺の近所の人たちに思い出を語ってもらったりして、このドキュメンタリー映画のための素材を集めに集めた。
■それらを構成して出来上がった映画は、家族のアルバムでもあり、地域社会の精巧なマッピングにもなっている(土徳とは、土からの恵み、地域社会からの恩恵のことだというが、はじめて聞く表現であった)。しかし、この映像のほんとうの価値は、被写体のひとつにもなる青原監督が、世界へ宇宙へ普遍へ向かう姿勢をとりつづけているところにある。
■妙な言い方になるけれど、原爆が、この試みには恵みとなっている。原子爆弾は、昭和 20 年 8 月に、日本の二都市に相次いで投下されたけれど、それは過去の事実というだけではなくて、現在に生きつづけている。映画は、執拗に過去と現在を往復しつづけることによって、「もうひとつの時空」を創造しようとしている。そのために原爆とその体験が欠かせない。
■上映時間はほとんど 2 時間に及んだけれど、飽きるということがなかった。
■終わり近く、この世を去った父・住職の妻が、散骨のためにインドへ行く。そのバスの窓から、わずかにどこかインドの町の風景がちらと見えた。その瞬間、ぼくは涙をこぼした。そうとうに大粒だったと思う。
■会場の出口で、広島のテレビのクルーだという人から、マイクを向けられ、感想を尋ねられた。「アメリカで上映してほしい。イラク戦争を支持し、あるいは擁護し、あるいは容認したアメリカ人たちに、ぜひ観てほしい」と言おうとして、その半分ぐらいを言えたに過ぎなかった。
■外に出ると正午を過ぎたばかりであった。若者たちで賑わうはずの下北沢の街は、この時間、ほとんど人影がなく、ゴーストタウンのようである。原爆投下直後の広島、あの日あの時の広島の廃虚がいまこのときに出現するとしたら。
■真夏のこの時期、真光寺の墓地をうめる、きらびやかな盆灯籠。その俯瞰映像の不思議さと美しさを、隣の友人が話題にしている。
■そうだよね、あれよかったよ。
★
上映スケジュール
●TOKYO
8月2日(土)〜8月15日(金)
モーニング10 : 15+レートショー19 : 30
特別鑑賞券1300円 当日一般1500円 学生1300円
シネマ・下北沢 世田谷区北沢1−45−15 スズナリ横丁2F TEL 03-5452-1400
●HIROSHIMA
9月6日(土)〜9月19日(金)
11 : 30/13 : 50/16 : 10/18 : 30
特別鑑賞券1300円 当日一般1500円 学生1300円
横川シネマ 広島市西区横川町3-1-12 TEL 082-231-1001
(8月9日(土)、10日(日) 10:30各一回のみ先行上映会あり)
●NAGAOKA
第8回長岡アジア映画祭出品
9月11日(木) 午前10:00より
会場:長岡リリックホール(新潟県長岡市)
問い合わせ:市民映画館をつくる会 TEL 0258-33-1231 長岡商工会議所 TEL 0258-32-4500
ホームページ:http://www.mynet.ne.jp/~asia/
[2003.8.4.]