★映画『赤目四十八瀧心中未遂』からテレビ『冬のソナタ』へ
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 「心に深く突き刺さる映画である。目にも耳にも、深く、強く突き刺さってくる」ではじまるメールを、知己のひとりが送ってくれたのは、昨年 11 月のはじめであった。それは、映画『赤目四十八瀧心中未遂』の推薦文である。

 このメールは二部構成の長文で、最後の最後は、「そのうち、きっと東中野へ行くことになる。そうしたら、心中物を語ろう」で終わっていた。当時、この映画は、ポレポレ東中野だけで上映されていたのである。

 そう言われては出かけなくてはいけなくなる道理だが、10 日ほど旅をすることになっていて、そのための仕事のやりくりやらなんやらで、11 月中には観にいくことができなかった。

 その間に、この映画はさらに評判を高めたらしく、シネマ・下北沢でもロードショー上映がはじまった。ポレポレでは当然のことに、「絶賛上映中!」ということになる。

 手帳を繰ってみると、12 月 11 日に、やっと東中野に出かけている。その日は、午後の早い時間に、都心で仕事があって、それが終わって地下鉄の駅に行き、路線図を見上げていて、大江戸線が東中野を通っていることに気がついた。

 作家の秋庭俊氏が、2002 年の暮れに出された『帝都東京・隠された地下網の秘密』(洋泉社) という本のなかで、東京の地下鉄は戦後しばらくまで銀座線だけだったというのはうそっぱちで、戦前から、「帝都」の地下は地下鉄路線が縦横に走っていたという、驚くべき「真実」を語っておられる。つい最近、続編が出て、秋庭氏は、この都市の地下動脈を執拗に遡行しつづけているらしい。

 地下鉄の四通八達ぶりに混乱させられるきょうこのごろを思いながら、これらの本を読んでいると、妙に納得するのである。

 このあたりの人には失礼な話だが、東中野などという土地に、東京のど真ん中から地下鉄一本でたどりつけるなんて、正気の沙汰ではないという気持ちになる。こりゃ、やっぱり、なんかあるぜ、と思うのが当然だと。

 地下の東中野に到着し、地上の東中野に浮上したら、もう一度地下へ下ろされて、遂にたどりついたポレポレで、アマこと尼崎などという、見知らぬ土地の、鍵もないアパートの四畳半部屋へ連行されたわけである。そこでは、生島与一という若い男が、焼鳥用の臓物を串に刺しつづける日を送っている。

 この映画のおもしろさを知らせてくれた知己には、翌日、こんなメールを送った。

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きのう、東中野で観ました。
下北沢でも上映がはじまったようですね。
暗い空、強くなる雨の午後でした。
東中野ポレポレ座の前に、
赤目四十八瀧と墨書した幟が立っていました。
16 時 20 分からの回で、平日だし、
ゆっくり観られました。
長さを感じない映画でした。
イメージが氾濫していて、
それらを追いかけているうちに、
エンディングになっていました。
アマの海辺が、目のなかに残ります。
あの海と瀧をつなぐ冒険を課された気がします。
大楠道代の存在感が圧倒的でした。
ぎしぎしと刺し貫かれる臓物と、
彫師の「鑿」と。
腹を思いきり見せるガマと、
男を腹の上に載せて、
駒込、田端、日暮里、鴬谷……(西日暮里を入れていないところが、細かいです。彼女の山手線は 30 年以上前のものなのでしょう)
と呪文を唱えつづける娼婦と。
イメージの連鎖から連鎖へといつまでも泳いでいく思いです。
頭のなかが沸き立ちます。
ありがとうございました。

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 2003 年の映像は、これでトドメになるはずだったし、そのつもりでもいた。ところが、意外なことが勃発した。

 別の知己から送られてきたヴィデオがきっかけであった。あるテレビ番組を見損なってしまい、その話がたまたま出たら、録画してあるからというので貸してくれたわけである。

 送付を知らせるメールのなかに、こんな意味のことが書き添えられていた。「重ね録りをしたので、その後に、気まぐれに録った『冬のソナタ』の最終回が入ってしまっているけど、気にしないように」

 『冬のソナタ』か、と思った。この韓国テレビドラマの評判は聞いている。日本でも大ブームになっていて、複雑にして明解な恋愛の舞台となった土地へのツアーまで実施されているらしい。

 テレビ放映時に観たことはない。内容も知らない。ちょっと観てみたい。しかし、借りたヴィデオで、関係ない部分まで再生するのはルール違反のような気がする。それで、観てもいいかどうか問い合わせた。すると、意外なメールが返ってきた。「暮れに再放映があり、今度は全部録画するつもりでいるので、観たいのなら、録画終了後に全編分を貸そう」

 これはありがたい。渡りに舟とはこのことではないか。贅沢過ぎるけれど、ありがたく貸してもらうことにした。

 20 回分のテープ 3 巻を手にしたのが 12 月 29 日であった。30 日に観はじめ、年を越えて 1 日までずっと、『冬のソナタ』で過ごした。年末年始のテレビ番組を観ることなく過ぎたのは、生まれて初めてのことだったと思う。

 ヴィデオの持ち主には、こんな御礼メールを送った。

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テレビの前で、
くだらない、はっきりしてよ、それはないだろ、
などとつぶやきながら、
やめられない。
ひとりスーパー・ラヴストーリーに夢中になっているおやじというのは、
我れながらおそろしい。
でも、どうしてもやめられない。
マンネリズムがここまで丁寧に突きつめられたことに拍手したい。
正月番組を観る必要もなく、
おかげで、
心に残るお正月になった。
感謝。

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 集約された時間と、拡散していく時間と。

 イマジネーションの種をつぎからつぎへと与えつづけるメディアと、感覚器への刺激をひたすら反復することでエネルギーを増大させていくメディアと。

 演技者の内側へ入り込むことを望まないではいられない映像と、演技者の外側を浮遊することで満ち足りた気持ちが呼び起こされる映像と。

 そして、映画の後に読んだ『赤目』の原作(文春文庫)は、凄かった。

 メディアを回遊する魚としての人間存在。

 そのことを確認したときはじめて、ぼくたちは、この世の諸事を心安らかに受け入れる。

 かくて正月に突入したのは、まことに運の良いことであった。

[2004.1.16.]

 『赤目四十八瀧心中未遂』公式サイト
 
http://www.akameworks.com/
 『冬のソナタ』公式サイト
 http://www3.nhk.or.jp/kaigai/sonata/


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