★在イラク米兵の頼りは軍用トラック

 前線の兵士たちにとって、いちばんの関心事は、イラク戦争の行方でもないし、イラク総選挙がほんとうに実施されるかどうかでも、もちろんない。この戦争に賛成か反対かは問題になどしてはいられないにちがいない。戦場をいかにして生き延びるかこそが、彼らの頭のほとんどを占めているはずである。

 彼らにとって、移動のために使用される、大切な友であり、守り神になるのが、装甲車両である。それは、脚であるだけではない。身を守るための鎧であり、もうひとつの、強靱な皮膚として意識される。そこで、より強く、より軽い装甲が求められる。こうした兵士たちの生への渇望の「恩恵」にあずかっているのが、車両装甲企業である。彼らもまた、製品の品質向上という戦いを強いられる。

 このイラク戦争では、かつては装甲の必要のなかった車両も防護をしなければならない。戦車などの攻撃用車両でなくても、物資供給や燃料の配給などに使われている車両さえ、装甲をほどこす必要がある。それだけ危険が日常化しているということである。

 兵士たちは以前にも増して危険を身近に感じている。そして車両装甲の製造企業の儲けは目に見えて増えている。

 現在、もっとも多く使われている装甲車両は、ハンビーの名で呼ばれ、20年近く前の85年にアメリカ軍の部隊に配備された。さまざまのヴァリエーションがあるが、いずれもアルミに鋼鉄フレームのボディで、もちろんフル4駆で独立懸架の足まわり。V8のディーゼルエンジンは最大出力150馬力、時速105キロの最高スピードで走れる。

 このハンビーがはじめて実戦で活躍したのは89年のパナマ紛争で、91年の第一次湾岸戦争では、機甲部隊に先立って、現地へ空輸されている。さらにその後、ボスニアやコソボ紛争へと転戦した。現在では、これなしには、アメリカ軍はどこへも移動できないと言ってもいいであろう。

 国防総省は、ハンビーをはじめとする車両の装甲強化に今年度だけで、8億4千万円を当てていて、いまなお5千台が待機状態と言われる。

 装甲企業は、たとえば、小規模なアロテック社でさえ、今年度の第3四半期だけで、113万ドルに達し、昨年同期の21万6千ドル増を大きく上回った。この増大は、関連企業がの開発した軽量化技術が軍用として重視されたからだと説明されている。

 車両装甲については、先ごろ、陸軍予備役の兵士18人が、燃料補給用トラックが装甲されていないことを理由に、任務遂行を拒んだことから、一般の注目を集めるようになった。さらに、現地を訪れたラムズフェルド国防長官に対して、兵士のひとりが、車両のあまりにも多くに装甲がほどこされていない理由をただして、政治問題化している。その際、長官が、「製造能力が十分でないのだ」という理由をもちだしたが、これには、業界から反発が出ている。

 「そんなこと言うけど、ウチの場合、工場が半分の設備しか稼働していないけど」と言い出す企業幹部がいるし、抵抗勢力の力を過小評価した当局の誤りを指摘する軍事評論家もある。その後軍は、イラクの全車両になんらかの装甲をほどこすことを約束させられている。

 今日の戦争は、手榴弾やライフルでは身を守るのにまったく不十分である。イラクの抵抗勢力の攻撃で明らかなように、手製の爆弾は車両のあらゆる部分を標的にしているし、離れた場所から投げられもする。

 この事態に対応すべく、新しい技術が開発の過程にあるけれど、実戦に用いるとなると、可能性のあるものはいまのところ皆無なのである。その意味では、第二次大戦当時となんら変わるところがないらしい。

 より軽く、より強くという、ふたつの二律背反した要求に応える装甲が必要だが、すぐに空輸できることが、ますます重視されるからである。戦闘がはじまると、輸送のための戦争車両が完全に揃うまでには数ヶ月も要してしまう。使用できる港があっても、戦場がその近くだと、船から攻撃する以外に手がないという事態になるわけである。これをできるだけ迅速にして、兵器そのものの発達に対応することを目指している。

 装甲製造については、まだまだ技術開発が期待されていて、新規に参入する機会だと、とくにIT関連からの熱い視線が向けられている。戦争が技術革新の道を開くという真理の好例になりつつある。

 遠距離からのピンポイント爆撃の一方で、ゲリラ攻撃という白兵戦に近い戦いにも備えなければならない。それだけ、軍需産業の裾野も拡がっていく。日本が武器輸出を急いで解禁しようとしているのにも、戦争の「やりかた」が変わることで新たな軍需市場が生まれているという背景があるはずである。

[2004.12.17.]


この記事のURLを友人・知人に知らせる
HOME自由意志購読フレームを外すBACK