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★東京に戻って、つらつら考える。(2)
なぜアメリカ軍はフィリピンに「進駐」したか■
このごろのフィリピンのテレビ・ニュースは、南部地域ではじまったアメリカ軍との合同軍事演習の報道にほとんど占拠されている感がある。フィリピンには、アブサヤフと呼ばれるイスラム過激派の組織があり、現にアメリカ人などを人質にして、反政府軍事行動を続けている。
しかし、この状況はなにもいまにはじまったことではないわけで、なぜこの時期に、アメリカは演習を名目として軍事的圧力を強化しはじめたのか。それが問題になる。
これは、9月11日以後の対テロリズム戦略と深く関わっているわけだが、フィリピン「進駐」のほんとうの目的は、マレーシアを屈服させることにあるのではないか。
1月28日発売の『ニューズウィーク』誌は、9月の同時多発テロの容疑者たちの出撃拠点はマレーシアだとするFBIの機密文書を入手したと報じている。クアラルンプールでアルカイダからの指令を受けた後に、アメリカに渡って飛行訓練校に入り、ハイジャックを実行した容疑者が複数いるというのである。
マレーシアのマハティール首相は、これを強く否定したが、アメリカは、この国をテロの拠点と見なしたい考えであるらしい。
折から、シンガポール政府などによってイスラム過激派の黒幕と名指しされる導師アブ・バカール・バアシルなる人物が浮上した。バアシルは、インドネシアからマレーシアへ逃亡し、同地でイスラム原理主義を説いて、その周りに熱烈な支持者グループが形成されたという。そこから、フィリピンのイスラム過激派組織やタリバーンに参加する者が出たと、指摘されているわけである。
「朝日新聞」の記者が、いまはインドネシアに戻っている導師を訪ねてインタビューしたが、テロ事件との関係を否定している。
マレーシアは、隣のインドネシアとともに、事実上イスラム国家であるばかりではない。北朝鮮を除けば、アジアで唯一アメリカが主導するグローバル化に抵抗してきた国だという実績がある。
アメリカ政治はつねに、あからさまに、経済的利益で裏貼りされている。3年前に基地を撤収して出ていったフィリピンに、アメリカ軍の兵士たちが帰ってきたことは、アメリカが、この地域の政治と経済に本格的に介入しようとする姿勢のあらわれと見られる。その最大の標的が、イスラムで、しかも反グローバリゼーションのマレーシアなのである。
反テロを掲げて、アメリカに抵抗する勢力をつぶそうするのは、かつて反共を旗印に中南米諸国の反米勢力を根絶やしにしようとした故事と、同じパターンであることがわかる。
40年前の、とんでもない真実■
先ごろ、アメリカの「ABCニュース」が興味深い事実を報道していた。
それは、1962年に軍首脳部が立案した「ノースウッズ作戦」についてである。62年はケネディ大統領の時代であった。キューバでは、カストロが社会主義政権を樹立していた。CIAはカストロ打倒を目指して亡命者たちを組織しキューバ上陸を企てたが、失敗に終わった。この「ピッグス湾事件」から半年も経っていないころである。
当時の統合参謀本部議長、ライマン・レムニッツァー将軍を中心にした軍の最高指導者たちが立案した「ノースウッズ作戦」は、アメリカ本土への大規模な偽装テロ計画であったという。各都市で暗殺や爆破事件を起こし、キューバの港にいるアメリカの船舶を炎上させ、さらには、アメリカ初の有人ロケットをも爆発させようするものである。当然、すべてはカストロがやったことにして、これを口実にアメリカ軍がキューバに侵攻しようという、とんでもないプランだったというのである。
しかし、ケネディによって却下された。アメリカ上院は、軍内部の極右派グループに関する調査を開始し、レムニッツァーは、大統領によってその職を解かれている。
ケネディ暗殺事件は、そのすぐ後に起こる。そして、犯人とされるリー・ハーヴェー・オズワルドには、「カストロ・シンパ」のレッテルが貼られる、という経緯である。
この報道が昨年の9月11日以前に行われていれば、ケネディはだれに殺されたのかという文脈がもっとも重要視されたにちがいないが、いまとなっては、それは色褪せた。むしろ、アメリカの権力内部には、思うように状況を動かせないときに最後に頼る、伝統的な強行突破の手段がずっと受け継がれているらしいという点に着目する必要があろう。
同時多発テロ発生2カ月前のホワイトハウス人事■
たとえば、『ザ・ネーション』誌のデイヴィド・コーンなどが、昨年7月の段階で注意を喚起していたホワイトハウス人事がある。ブッシュ大統領が、エリオット・エイブラムズを、国防政策決定の最高機関である国家安全保障会議(NSC)のスタッフに任命したケースである。
9月11日から2カ月前ということになるが、いまの時点から振り返るならば、テロは、ブッシュが展開しようとしていた「外交政策」をプッシュする役割をしたのであり、テロがあったから強硬な反テロ行動をとることになったのではないということが理解できる。これは、そういう人事である。
NSCのスタッフを任命するには、議会の承認を必要としないことになっている。もし承認が必要な役職だったら、エイブラムズはとても無理だったにちがいない。彼は議員のひとりにかつて、「あんたの証言には反吐が出るよ」と言わせた。「殺そうとしてもなかなか死なない蛇」とも評され、議員たちに嫌われること、文字どおり蛇蠍の如しである。
エイブラムズは、80年代のレーガン政権時代、ラテンアメリカ担当の国務次官であった。
当時、ニカラグアの反政府組織コントラに、アメリカ政府がひそかに(つまり、議会の反対にも関わらず)援助を続けていたが、その工作の中心人物のひとりが、彼であった。上院の聴聞会にたびたび呼ばれ、堂々と偽証をしている。
また、中米のエルサルヴァドルで、アメリカの軍事顧問団のバックアップを受けた政府軍が約1,000人に上る民間人を虐殺した事件を隠蔽したのも、エイブラムスである。この事件を暴露したジャーナリストのひとりは、国務次官の宣誓証言のほうを信じた会社側によって左遷されている。
その後、エイブラムスは、偽証罪で告発され、罪に服したが、父ブッシュによって大統領恩赦を受けている。そして、今度は息子ブッシュのおかげで、ホワイトハウスの中枢に招き入れられたわけである。
この人事についての大統領側近の感想は、「過去の問題にこだわることはない」というものであった。しかし、NSCでのエイブラムスの任務が「民主主義と人権問題」であることを知れば、こだわらなさすぎじゃないか、という気がしてくるにちがいない。
レーガン・ブッシュのコンビが、当時のソ連を「悪の帝国」と定義した1980年代と、息子ブッシュが「悪の枢軸」を弾劾する21世紀初頭とのあいだのつながりを、エイブラムス人事は雄弁に物語っている。彼はその生き証人であると同時に、どちらのステージでも大活躍を保証される、現役のプレーヤーでもある。★
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