アメリカ陸軍の予備役曹長で、イラクでの軍務から戻って間もないアル・ロレンツが、保守派のウェブサイトに、「我々が勝てないわけ」というエッセーを発表した。ロレンツの下士官としての軍歴は20年に近い。通常はテキサスで牧場経営をしながら、コンスティトゥーション党という保守派の少数政党の政治活動に従っている。ブッシュ大統領も、テキサスの牧場主だから、似た境遇にあると言えるわけだが、イラクの現地で戦った者とそうでない者の差が、そのイラク戦争観をくっきりと分けることになった。
なお、ブッシュの故郷の地元紙『ザ・ローン・スター・イコノクラスト』は、前回の大統領選でブッシュを支持したが、最近の社説で、民主党のケリーを大統領に正式に推薦することを表明して話題になっている。ブッシュ支持からの転換の理由は、現大統領では「アメリカの尊厳を回復することができない」からである。
ところで、ロレンツのエッセーを軍当局が問題視している。不忠誠と不服従のかどで、告発の準備が進行中という。連邦法規と軍の司法規定の両方で検討されている。これが現実になれば、ヴェトナム戦争以来はじめてのケースである。有罪の場合、懲役20年の刑に処せられる可能性がある。
もっとも、兵士が一般の人の前で、自分の意見を述べたり、文章にしたりする自由が、一方で認められている。実際に告発されることは稀である。
2003年9月に、当時現役の空輸部隊の兵士だったティム・プレドモアが出身地の新聞『ペオリア・ジャーナル・スター』に、次のような痛烈な書簡を送り、そのまま紙面に掲載されたことがある。「この半年、私は現代最大の嘘『イラクの自由作戦』に加わってきた。……いわゆる解放と自由の戦争で最初の銃弾が発射された瞬間から、偽善が支配している。……私は、真実はせいぜい半分しかない、大胆な嘘と信じられるものに立脚する軍務をもはや正当化することはできない」。プレドモアは告発されなかった。
逆に、アル・ロレンツの告発をむしろ歓迎する声が、ロレンツの支持者の側から出ている。というのは、これによって逆に、ラムズフェルド国防長官にまで至るペンタゴン幹部、さらには、最高司令官であるブッシュ大統領の戦争責任を追及するための「ロードマップ」を用意することができるからである。
ロレンツ曹長は、問題のエッセーのなかで、「イデオロギーと理想主義では、歴史と現実に勝つことはない」」と主張し、次のような四つの「勝てない」理由を挙げる。そのすべてが、戦場での実感から出発しているところが注目される。
1=現実に対処することを拒んでいること= 実際にはイラク戦争はゲリラ戦争なのに、政治的な必要から、敵をテロリストや犯罪者と規定している。ゲリラ戦争なら支持基盤を叩くことが必要だが、相手が悪者ということになると、ひたすらぶっ殺さなくてはならない。アメリカはそういう戦いをしている。
2=敵を動機づけているものはなにかがわかっていない= イラク民衆は無知で、我々を解放者として歓迎してくれるものと、アメリカは思い込んでいた。占領が長引くにつれて彼らが敵対的になっているのを、アメリカ人の多くは知らされずにいる。アメリカのやりかたにイラク人は怒っているし、心を乱されている。一握りのテロリストがイラク人を怖がらせているわけではない。
3=敵の補充速度の速さがわかっていない= ゲリラ戦士の生命が失われる速度より、欠員を補充するそれのほうが速い。対象を正確に殺害しようとして、アメリカ軍はミサイル攻撃をつづけているけれど、これには、つねに民間人の犠牲を伴う。一般市民がアメリカ軍によって殺害される、その事実が、ゲリラの増加をしきりに促している。
4=物資の調達とコミュニケーションに於て、敵が優位である= アメリカ軍は、はるか本国から運んでくるため、手間がかかるし、金がかかる。輸送途中で奪われもする。ゲリラのほうは手近になんでもあるし、友人、家族、信仰仲間、すべてに助けられる。
5=敵の適応能力、態勢立て直しの能力を過小評価している= 敵はアメリカ軍の攻撃に学び、戦略戦術を素早く変更して、反撃してきている。最近は、抵抗勢力をあなどったツケを支払わされるばかりである。
アメリカ軍を向こうにまわして戦うイラク抵抗勢力の中核にいるのは、80年代の砂漠の戦い、つまりイラン・イラク戦争を戦い抜き、生き延びた精鋭だと言われる。
ロレンツ曹長は、「アメリカ憲法へ忠誠の誓いを立てている我々自身が、この非憲法的戦争を戦っている皮肉」を嘆くのである。
★
[2004.10.4.]