★同じ楽器を弾く後ろめたさ 高野ひろし

piano

 筆者の高野ひろし氏は、ブルースロックバンド「ペンギン・クラブ」の首席ピアニスト兼隊長である。このバンドは、メンバーたちの大学卒業と同時に結成されたもので、「恋愛や人生や教訓を絶対に歌わず、言葉遊びに徹する」ことを基本テーゼとしている。
 以下に掲載する文章は、本来、同バンドのホームページの連載コラム「隊長のエンヤコラム」のために書かれたものである。なお、このコラムへは、当サイトの「南大塚萬重宝」からもリンクで行ける。転載については高野氏の承諾を得た。
 同氏は、承諾メールのなかで、「ライス国務長官がピアニストというのを聞いて、マジでショックを受けました。しかもヨー・ヨー・マとの共演もあるそうです」と記している。

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 敬虔なクリスチャンにして好戦的な石油会社の社長さんが、再び我らがブルース発祥の国の大統領になりました。最も人の痛みを表現した音楽が誕生した国が、率先して人に痛みを与えているというのが、どうにも解せないんですけどね。まぁその次ぎにブルースを進化させた国も応援しているし、最もブルース好きな国の大将も、あの大統領が好きなもんで、「ブルースの国=こわもて」という方程式が成り立ちそうな今日この頃です。

 そのブルース国の国務大臣さんがですね、褐色の肌の人で、しかも女性です。ブルースの面目躍如かと思いきや、大統領に勝るとも劣らない恐い人でした。私とそう年齢も離れていないのに、こうも異なる思想を持つものかと驚愕を越えて笑ってしまうほど、強烈な人です。この人はピアノを弾くそうです。しかも一時はピアニストを目指したほどの、本格派の腕前だそうです。

 ピアノを弾いていて、心優しくない。これはショックでしたねぇ。個人の性格として傲慢や欲張りや、嫌な奴くらいなら許しましょう。しかしあの人は恐ろしい。あんな恐ろしい人が、私と同様にピアノを弾いている。おそらく幼い頃から弾いてきたのでしょう。しかもほぼ同世代。私はピアノがこんなに悲しく思えたことはありません。

 聞くところによると、我が国の官房長官さんも、ピアノを弾くそうです。Wショック! 我が国の大将の意のままに動くスポークスマンが、やっぱりピアノを弾くんです。

 勿論古今東西のピアニストには、変人も奇人もたくさんいます。周囲から蛇蝎の如く嫌われた名手もいることでしょう。しかしその音楽は聞く者を癒し、楽しませます。無礼な仕打ちがあったとしても、その才能に免じて許されるものです。

 ブルース国とブルース大好き国の中枢に立つ2人は、その手に数え切れない人の命を握っています。もしかしたら握り潰すかも知れない同じ手で、私と同じ楽器を触るのかと思うと、やるせない寂しさを覚えるのです。
[2004.11.22.]


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