テキサス州法が、同性愛者の性行為を犯罪としていることについて、連邦最高裁が憲法違反の裁定を下した。類似の法律は、他に
12 の州にあるが、これですべて無効となるわけである。これによって、アメリカ全土でホモセクシュアルという存在が認められることになった。
ここに至る発端は、テキサス州ヒューストンの男性ふたりの訴えである。5 年前の 98 年に、彼らは自宅で性行為をしたとして逮捕され、200
ドルの罰金を払わされた。これに対して、憲法修正条項のプライヴァシー保護規定に違反するとして訴えていたものである。
こうした裁定が出てくるまでには、60 年代の末から活発化した「ゲイ解放運動」以来、長い時間をかけて積み上げてきた差別撤廃への長い道のりがある。「運動」が日常のなかにしみ込み、やがてゲイに対する違和感が消えていった。その結果として、「べつに同性が愛し合ったっていいじゃん」という気分が一般化した。
この裁定は、最高裁判事たちのなかで「右寄り」と見られるふたりが寝返ったためと言われている。彼らにしても 10 年前だったら、同性愛を認めなかったかもしれないが、すでに社会的に受け入れられている現実を受け入れる気持ちになったのであろう。
当然、裁定に対しては、いわゆる右派、保守派、あるいは道徳的多数派と呼ばれる人々や団体からは、激しい抗議の声が沸き起こっている。一方、リベラルは、両手を上げて賛成する。これは当然の構図である。
リベラル派の論客のひとり、ジェイミン・R・ラスキン(アメリカン大憲法学教授)は、判事たちのなかでもっとも保守的とされるアントニン・スカリアの「古くさい嗜好」を嘲笑した後、次のように総括している。「個人レベルでの勝利は、経済的不平等や政治的な人心操作などへ、人々の関心を向けさせるきっかけになる」
ブッシュ政権は、2 年前の 9.11 事件をきっかけとして、強権を使って市民的自由を制限する行動に出ている。情報操作によって、人々の知る権利は侵害される。イラクとの戦争が一応終息して、時間が経つにつれて、政府の突出した行為の実際が、次第に明らかになっている。一方で、石油利権、税に於ける優遇措置を通じて、一部企業や富裕層など政権支持基盤が利益を受ける構造ができあがりつつある。
ラスキン教授は、最高裁裁定を足がかりにして、こうした「非民主的」状況を変えていくことに期待をかけている。先の発言は、日常生活での個人の自由を武器として、政治と経済の自由の確保に向かおうじゃないかというアジテーションともとれる。
しかし、そう簡単にはいかないようである。というのは、ブッシュ政府による人心操作が、大きな成功を収めているからである。イラクでの戦争は、サダムが大量破壊兵器を保持しているという大義名分からはじまったことはよく知られる。ところが、戦争が終わり、すでに
2 ヶ月を過ぎたが、WMD という略称で呼ばれる、それら邪悪な武器はいまだに発見されていない。これに対してアメリカの世論は、政府の「うそ」や「情報隠匿」などをあまり非難してはいない。無くても有ってもたいした問題ではないという、ブッシュの姿勢に同調しているかに見える。
世論調査では、イラクは戦争の間に、WMD を使っていたと考えるアメリカ人が多数に達している。同様に、サダム・フセインとオザマ・ビンラディンの区別がつかない者も多い。この両者の間に連携関係があった証拠さえないのに、アメリカ人の多くが、同じ穴のムジナどころか、どっちがどっちでも同じことだという意識を持っているわけである。
そこに最高裁が言い出した「同性愛は合法」裁決が出てきた。その意味について、フリーマーケット派のジャスティン・レイモンドーが、これこそ「帝国」主義の文化の特質だという、きわめて興味深い見解を述べている。個人生活で勝手にやらせておけば、「帝国」がなにをしようとだれも気にしない、だからヘドニズム(快楽主義)は、権力者にとって好都合なのだと。権力の拡張と、私生活への惑溺は、相携えて進まないわけにはいかない。
レイモンドーは、アメリカ「帝国」とローマ「帝国」のパラレルを、ここに見ている。ローマでは、奴隷たちでさえ、勝手に性交し、勝手に子どもをつくり、結婚生活など無関係に自由に生きることを認められていた。彼らを支配する皇帝の筆頭には、自らを神と称し、愛馬を補佐官に任命したカリギュラがいる。現代のアメリカ「帝国」には、先制攻撃を正当化して、幻の大義をふりかざし、イラクに攻め入ったブッシュがいるわけである。
一貫して親ブッシュの急先鋒で戦争支持をうたいあげたフォックス・テレビが同時に、「もっとも薄っぺらなエンタテインメント」を放映するメディアであることを、レイモンドーは指摘している。
「人は色と欲にうつつをぬかしているかぎり、世界に何が起こっているかにまで注意が届かない。純粋に個人的な快楽に耽る人が増えればそれだけ、WMD
のうそをつきまくれるのだ」と、レイモンドーは述べる。
ブッシュは、同性愛を犯罪とし、さらには、死刑執行をもっとも頻繁に行ってきたテキサス州の知事から、ホワイトハウス入りをしている。大統領という権力は格別である。ブッシュ自身が「これこそモラル」と信じてきた軌道からさえ、大きく外れつつあるのだから。
いまはもう、宗教右翼と呼ばれるキリスト教原理派は、声を潜めている。彼らの反対する妊娠中絶も同性愛も、アメリカ「帝国」にとっては、なにほどのこともない。
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[2003.7.4.]