| ★自爆テロ研究者による「中東情勢の今後」 |
ロバート・ペイプは、シカゴ大の準教授で、自爆テロの研究者である。世界最大の自爆テロ・データベースを持っている。彼のコレクションのなかには、テロリストの出身地でつくられるアルバムなどの記念品も含まれる。彼らは地域の誇りなのである。このスペシャリストが語る「自爆テロという戦術の有効性」。
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自爆テロというとイスラムを連想するが、実際にはもっと強力な集団がある。スリランカのタミール・タイガーというグループが群を抜いている。ヒンズー教の宗教グループから発祥したマルキスト集団である。91年5月にラジヴ・ガンジー暗殺の際に、自殺用のヴェストを開発したことで知られる。パレスチナ人は、このヴェストからアイディアを得ている。
自爆テロの引き金になるのは、宗教ではなくて、テロリストたちが、「我れらが国土」と見なしている土地に、いわゆる民主国家が軍事力を展開していることで、この撤退を求めて攻撃に出る。自爆テロの95%が、その主要な目的として、外国軍隊の撤収を求めている。
軍事力でムスリム社会を変えていこうとすれば、それはただ単に、我々アメリカに向かってくるテロリストを増やすだけである。
合衆国は、90年以来、アラビア半島に軍隊を送り込んでいる。これが、ビンラディンとアルカイダを刺激し、テロリストの活動につながった。アメリカ以外の土地で、連中を暴れさせておけば、そのうちおさまるという議論はまちがっている。世界中に一定数しかテロリストはいない、狂信者だけだ、つまり供給量が限定されていると考えるのは、誤りである。需要が生まれれば、自爆テロリストは生まれてくる。イラクがその例で、かつてなかった自爆テロが頻発する。
ビンラディンは、9.11の前からしきりに、アメリカが「我らが国土」をおかしていると、アジ演説を行っていた。96年の演説では、アメリカがイラクを軍事占領し、1/3をイスラエル、1/3をサウジアラビアへ割譲しようとしていると述べた。これが、自爆テロ志願者に大きなアピールになった。
外国に駐留しても、目立たないでいればOKだろうというのが、アメリカ人一般の考え方だが、そうではない。その戦闘能力が問題なのである。アラビア半島には、じつに15万人のアメリカ兵がいる。圧倒的な軍事力が人々の心に覆いかぶさる。
アメリカ軍の駐留は、現地の人間を自爆テロに駆り立てる主要因である。
一方、西側の文化を拒絶するイスラム原理主義が主要因と考えてしまうと、イランの現在を説明できない。イランはイラクの3倍の人口を有する原理主義国家である。しかし、ビンラディンのテロリストにはイラン出身はいないし、イランから自爆テロリストがイラクに送り込まれていることもない。
スーダンも極端な原理主義国家で、ビンラディンは、90年代に3年間、この国にいた。しかし、スーダンからは、アルカイダの自爆テロリストは出ていない。
私は、95年から2004年初めまでのアルカイダ自爆テロリストのデータを全て持っているが、その2/3は、合衆国が90年以降に大がかりな軍事駐留を行ってきた国である。
アメリカが侵攻する前のイラクには、歴史をたどっても自爆テロはひとつもない。ところが、侵攻後は、その数が急速に増加している。03年は20件、04年48件、05年は1月だけで50件を越えた。倍増どころではなくなっている。
私の元には、80年以降、自爆に成功し、使命を全うしたテロリスト462人のデータがある。彼らのほとんどは、やらせてほしいと言ってきた志願者である。犯罪者はごく少ないし、テロリスト・グループの以前からのメンバーもあまりいない。したがって、大多数は、自らのテロ攻撃が、生まれてはじめてのヴァイオレンス体験ということになる。
イラクの自爆テロリストは、侵攻がつくりだした産物であると断言できる。イラク・スンニ派とサウジ出身者で占められる。アメリカ軍の存在によって、もっとも大きな影響をこうむっている人々である。
アルカイダは、少なくとも近い将来合衆国を攻撃はしないと思わせる文書がある。ノルウェイの諜報機関が発見した機密文書である。そこには、アメリカとの同盟にひびを入れるために、アメリカの友好国のほうを撃つことにエネルギーを集中すべきだと書かれている。
その文書には、イギリス、ポーランド、スペインについての分析がある。結論は、04年の選挙前にスペインを撃つべしとなっている。スペインは、2度、せいぜい3度、攻撃を仕掛ければ、イラクから撤退するだろうし、他はドミノのように倒れる。というものであった。
その文書がつくられて半年後に、アルカイダはマドリードを攻撃し、スペインは同盟を脱けた。他のいくつかの国が後につづいた。2002年以降、アルカイダが仕掛けた自爆テロ攻撃は15件あり、9.11以前のすべてを合わせたよりも多い。アルカイダは弱体化してはいない。かえって強くなっている。
我々アメリカにとって勝利とは、我々の枢要な利害のいずれをも犠牲にしないこととともに、自爆テロにアメリカ人をさらさないことである。イラクについて言えば、石油の利権を守る一方で、自爆テロリストの新世代が出てくることを阻まなければならない。
70〜80年代は、石油の権利を守るために、アラビア半島にひとりの兵士も駐留させなかった。その代わり、イラクとサウジアラビアと同盟関係を結んだ。ふたたび同じことができるはずである。かつて我々は、アラビア半島沖に空母を多数展開したが、現在は、海軍航空部隊に依存するのが、より有効である。また、我々は危機が発生したらただちに出動できるように、軍事基地を多数つくった。
90年のサダム・フセインに対して、このオフショア・バランシングは、大きな効果を発揮した。現在ふたたび、石油の権利を守り、自爆テロ犯の増加を食い止めるには、この戦術がベストである。
自爆テロのパターンを研究すると、外国による占領があるところすべてで、それが発生するわけではない。ほとんどのケースに言えることだが、占領者と被占領者の宗教上の相違が存在する。レバノンでもイラクでもそうだし、スリランカでは、ヒンズー・タミールとシンハラ・ブディストが対立している。
占領者と被占領者の間に宗教上のちがいがあれば、テロリスト・グループの指導者は、占領者を悪魔として描き尽くすことができる。そうなると、占領者はなお居続ける。外国の軍隊よ、立ち去れとビンラディンは主張するが、その議論には現実的効果はない。アラビア半島にはなお、兵が居座っている。出口なしの状態である。
自爆テロリストの数を減らすのはむずかしいと言う人が多いが、テロリストの祖国から軍を撤収すれば、自爆テロは収まる。
レバノンでは、82〜86年の間に、41件の自爆テロ攻撃があった。その後、アメリカ、フランス、イスラエルが撤退すると、事実上やんだ。完全になくなったわけではないが、自爆テロが喧伝されることはない。
パレスチナの第二次インティファーダでも同じことが言える。イスラエルがパレスチナ支配地域からの撤退などを約束しているため、自爆テロ攻撃は減っている。
自爆テロ攻撃の目的は、死ぬことではなく、殺すことである。ターゲットにする社会に最大数の死者をつくり、当該社会がその政府に対して政策転換のプレッシャーをかけるように促す。政府が政策を転換してしまえば、もはや自爆テロの必要はなくなる。
自爆テロが軍事目標だけに攻撃対象をしぼっているとは言えない。したがって、アメリカ市民がテロの犠牲になることはもはやないとは考えにくい。目標の設定にあたっては、名目的な価値ではなくて、実行効果に重点が置かれているようである。つまり、犠牲者を最大にできるターゲットを探す。
ヨルダン川西岸で言えば、ハマスとイスラム・ジハードは、通常のゲリラ攻撃を、主に植民者に加えた。一方、自爆テロを使うのは、イスラエルの内部においてである。第二次インティファーダでは、イスラエル・プロパーに於ける攻撃の75%に対して、西岸でのわずか25%が、自爆テロであった。
アラビア半島の軍事駐留が長引くにつれて、たしかに、次なる9.11の危険も大きくなる。それが自爆テロであるかどうかは別として。
★[2005.11.21.]