■アメリカの新聞『ウォール・ストリート・ジャーナル』のジェームズ・テイラント記者が仕切るオンライン・ニューズレター『ベスト・オヴ・ザ・ウェブ・トゥデイ』10 月 13 日号に、大略次のような記事が載っている。
■イラク解放戦の最中に、同盟軍の爆撃で両親と両腕とを失った、13 歳のアリ・イスマイル・アッバスくん。彼は、戦争に恐怖のシンボルになった。しかし、いまや彼は、英米文化の人間性の象徴へと変わった。
■BBC が伝えるところでは、ロンドンの病院で、アッバスくんに義肢がつけられた。彼は語っている。「とても気持ちのいい腕だ。こんなに素敵だとは思わなかった。いますぐ、妹たちをハグしたい。自分で歯を磨いたり、顔を洗ったりしたい」
■自分に起ったことについて、彼が苦々しい思いを抱いているのは、理解できる。「ぼくたちの家を爆撃したパイロットも、ぼくと家族のように火に包まれたらいいと思った。でもイギリス人には怒っていない。病院に手紙をくれた。でもイギリスもアメリカを助けたんだよね」
■罪のない人々が戦争で殺され、不自由な身体になる。それは、生の悲しい現実である。しかし、しかし、アメリカの敵対者たちのだれが、「敵」の子どもに、これだけ手厚い医療を提供し、ましてや、政府が所有するメディア(BBC は国営放送である)で、勝手に自分の意見を言わせたりするであろうか。
■10 月 11 付けの、アメリカ・ワシントン州の州都オリンピアの新聞『ジ・オリンピアン』に、大略次のような記事が掲載されている。
■本紙は、当地出身で、現在イラクに派遣されている兵士ふたりから、同一文の手紙を二通受け取った。
■これらの手紙は、イラク北部の都市キルクークに於いて、アメリカ軍部隊が、警察、消防、水道、下水などの再建にいかに努めているかを綴っている。「市民の生活の質および安全は、大幅に改善され、我々はこれに大いなる寄与をした」
■手紙にはまた、人々は通り過ぎる部隊に手を振り、子どもたちは駆け寄って握手を求め、ありがとうと言う、とも書かれている。
■だれが手紙の文章をつくり、兵士たちの故郷の新聞に送るよう手配したかについては明らかではない。
■本紙の系列チェーン、ガンネット・ニュース・サービスでは、11 の新聞にも、これと同一の手紙が送られていることがわかった。いずれも、第 503 空挺歩兵連隊第 2 大隊の兵士からのものである。現地の兵士たちに問い合わせたところ、彼らの反応は、次のようなものであった。
■兵士1=その手紙にはサインはしたが、新聞に送られたことに困惑している。その新聞が発行されている町のハイスクールにたしかに通ったけれど、自分の故郷はそこではない。
■兵士2=父親からの電話で、「いい手紙だったよ」と言われて、「どの手紙?」と訊いた。ぼくはあのような文章は書かない。父親も「それはそうだな」と言っていた。
■兵士3=部隊の軍曹から手紙を配られて、故郷の新聞の名前を教えろと言われた。そして、手紙を読んで同意するなら、サインしろと。書いてある通りだと思ったから、サインしただけだ。
■部隊のスポークスマン=兵士のだれかが書いたらしいが、だれであるかはわからない。広報部門は関与していない。
■手紙には、次のようなことも書かれている。「我々兵士 1,000 人は、10 機のジャンボ・ジェットからパラシュート降下した。キルクークは、人口 100 万ちょっとの暑く、ほこりっぽい都市である。……我々兵士みんなの努力の果実は、今日のキルクークの通りを見れば、一目瞭然である。道路にはほとんどごみがなく、市場や店舗には以前よりずっとたくさんの人々が訪れるようになり、子どもたちは学校に戻っている。イラクで我々がしていることに私は誇りを持っているし、貴紙の読者の皆さんも同様だと思う」
■『USA トゥデイ』紙と CNN テレビの共同世論調査で、イラクは戦争をする価値があるかという問いに、今年 4 月には、73 パーセントがイエスと答えていたが、9 月 23 日に 50 パーセントになっている。価値ある戦いと思っている人たちが、まだ 50 パーセントもあると見るか、50 パーセントしかないと見るかは、議論の分かれるところであるが。
■兵士4=その手紙の調子には同調するが、自分のサインする手紙なのに、自分なりの言葉がなく、自分自身が何を成し遂げたか、どんな寄与をしたのが書かれていないのは不快に思う。カンニングをしたみたいだ。これでは成績に差が出ない。
■兵士の家族=私たちは息子を支持していく。しかし、この戦争を支持しないたくさんのアメリカ人は、これら兵士たちを呼び戻したいと思っている。これから状況はさらに悪くなると思う。
■特徴的なのは、イラク戦争と戦後についての反対が、示威や物理的抵抗という、目立った形をとっていないことである。緩やかな流れとして、政権の戦争政策への批判が、アメリカ国民のなかにひろがっている。
■アメリカ人の多くが、戦後になってようやく、イラクとアメリカ、イラクと自分たちの関わりを見つめつつある。その結果が、ゆっくりとした政権離れを引き起こしている。
■これに対して、軍事占領というかたちでの戦後を正当化しようする論調や行動が、相変わらず横行しているけれど、次第に、隠微な色調を帯びだした。アメリカの「温情」を兵士に語らせ、アメリカの自由なメディアの「ありがたさ」を喧伝しようとする、上記のような動きは、これまでの征服者と同様の顔を、アメリカが見せはじめたことを示しているであろう。
■イラクの戦後は、腐臭を放ちだした。アメリカの占領に対する武力抵抗が強まっていることは、たしかである。これに対抗して、アメリカのプロパガンダがいっそう手が込んいく。つまりメディア操作に全力を挙げている。
■ブッシュの訪日を前にして、アメリカ高官が、日本人記者団*(1)に向かって、「ガイアツの時代は終わりにすべきだ」と発言した。これを日本の新聞が報道する。呼応して、日本政府が、イラクへの 15 億ドルの無償援助を発表する。日米両政府がメディアを手玉にとって演出したドラマは、みごとな出来栄えであった。
■メディアが自らの存在理由を忘れて、あるいは忘れたふりをして、権力が演出する芝居に出演している。腐臭を感じなくなる近道は、腐臭の一部になってしまうことである。
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〈注〉 *(1) |
■ ■日本人の記者のひとりに、アメリカ政府の高官がこっそり話をして、情報源が匿名になるのなら、ありそうだけれど、「記者団」を集めて高官がしゃべり、そのしゃべった当人の身元が明らかにされないというのはおかしな話だ。集まった記者たちに、「諸君、私から聞いたとは言わないでくれよ」と告げている光景は、笑える。「記者団」は操作された情報であることを知り尽くしながら、匿名高官の話を聞き、平気で記事にしているわけである。 |
[2003.10.17.]