★イラク戦争に蹂躙される古代文明の遺産 |
ベネズエラの作家、フェルナンド・バエスは、アメリカがイラクで行っている文化破壊を糾弾しつづけている。1258年に、ジンギスカンの遺志を継ぐ蒙古軍がバグダードを破壊して以来の最大の破壊だと、バエスは述べる。
書籍100万冊、記録類1000万点、古美術品14000点。これだけが、アメリカ軍のイラク侵攻以後に失われたという。
「アメリカとポーランドの兵士たちは、いまも文化遺産を盗み出して、クエートやヨルダンで売り捌いている。古美術商たちは、シュメールの石版一枚に、アメリカドルで57000ドルの値さえつける」
シュメール、アッカド、バビロンのメソポタミア王国群の文化財が失われていく。
1954年のハーグ条約で定められた、戦時の文化遺産保護が反故にされていることを批判するバエスは、ワシントンのブラックリストに載せられているらしく、会議などへの出席のために、入国ヴィザを申請しても、交付されない。
さらには、調査を続行するためにイラクに戻ることも認められていない。
まず、アメリカ告発の論拠は?
「軍事紛争の際の文化財保護を規定したハーグ条約への違反。これは犯罪行為として処罰される。だから、アメリカはこれにサインしていないし、付属文書の1999年議定書についても同様である」
図書館や博物館を略奪したのは、アメリカ兵ではなくて、イラク市民だと言われているが?
「たしかに。しかし、ユネスコ、国連、シカゴ大オリエント研究所、文化財に関するアメリカ大統領諮問委員会の前委員長などから、明らかな警告があったにもかかわらず、アメリカ軍は、図書館、博物館、遺跡などの保護を怠った。その責任が大きい。イラク人は、この怠慢を、略奪OKのサインと受け取ってしまった」
アメリカの罪は、怠慢行為にあるということか?
「それだけではない。直接的な破壊と略奪もしている。2004年5月、ナシリアで、シーア派のサドル師の武装集団と戦った際に、多国籍軍側が放った火によって、宗教文書40000点が失われた。シュメールの都市ウルが、預言者アブラハム生誕の地だと知った兵士たちが、古代の煉瓦片を我先にと、持ち去った」
アメリカ兵だけではないのか?
「その通り、略奪した文化財をクエートに持ち出そうとしたイタリア兵のグループが逮捕されている。バグダードの南で、ポーランド兵が、バビロンの遺跡の一部を破壊したと大英博物館が発表した」
これらはもはや過去のことで、現在では、おこなわれていないのでは?
「いや。紀元前6世紀の古代バビロンのネブカドネザル宮殿の場所に、ポーランド軍の車両部隊がやってきて、広い範囲を、アスファルトで覆ってしまった。これはもはや元に戻せない。イシュタル門でも、煉瓦が何度も削りとられている。古代の壁遺跡では、アメリカ軍のトラックやヘリがひっきりなしに通過するために破壊が進んでいる。スプレイペイントで落書きされたり」
金額にすると、どのぐらいの損害になるのか?
「計算は不可能だ。バグダード国立図書館の場合、約100万冊の本が焼失したが、そのなかには、アラビアン・ナイトの初期の版や、数学の歴史に欠かせない文書、アラビア哲学の重要な手がかりなど、とても値段をつけられないものが数多く含まれている」
略奪したものを返還した場合の免罪措置の効果は?
「国立考古学博物館については、17万点が失われ、免罪が公表されたら、うち戻ってきたのは3500点という」
バエスは、幼い頃、ベネズエラの故郷の町で過ごした図書館の思い出を大切にしている。両親共に働きにでていたので、図書館の職員をしていた親戚の者によく預けられたのである。いつも本とともにあった図書館の日々。あるとき、大水が出て、その図書館が流失してしまった。彼が、図書館や遺跡破壊を調査しつづけているのは、この幼児の記憶に発している。
やがて、『書籍破壊の世界史』を書くに至った。紀元前48年に焼け落ちたエジプト・アレキサンドリア図書館をはじめ、ナチスによる焚書など、戦いの間に失われていった本の記録である。
本にとっての最大の敵は軍隊か?
「いや、そうは思わない。いちばんの敵はインテリたちだ。彼らは、聖書やコーランの名において、本を焼いてきた。ヒトラーもミロセヴィッチも本好きだった。サダム・フセインは、考古学と文献学に通じ、小説を3作発表している。アメリカのイラク侵攻を先導した者たちのなかにも学者が多い。ここにひとつのパラドクスがある。電子ブックの発明者たちは、本と歴史と文明を生んだメソポタミアへもどっていき、そこを破壊した」
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[2005.4.1.]