★ファルージャ包囲攻撃のルーツ

今週初め、ニューヨークで、「ニューヨーク・タイムズのアメリカ外交報道」をテーマにしたフォーラムが開かれた。席上、コロンビア大の政治学教授マフムード・マムダニが、最近のファルージャをめぐる情勢に関して行った発言をネット上で聴いた。メモをもとに、その内容のいくつかを紹介しておく。

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ファルージャの抵抗の歴史に関する記述は、ニューヨーク・タイムズには出ていない。イギリスの新聞、ザ・ガーディアンを読まなくてはならない。それによると、発端は、2003 年4月28日である。このときアメリカ軍の兵士たちに占拠された学校の親と子どもたちが、これに抗議するデモをした。兵士の発砲で、18人が殺され、60人が負傷した。これがすべてのはじまりなのだ。
 
ファルージャと同様の抑圧の歴史をたどって、やはり、イギリスの新聞、ジ・インデペンデントにたどりついた。1982年のシリアの町、ハマで、ムスリム同志団が町を占拠して、アサド政府に反対して立ち上がることを呼びかけた。政府は町を包囲し、完ぺきに破壊した。1万人の市民が死んでいる。この後、アメリカ政府はシリアをテロリスト国家に指定したのである。このハマの虐殺に並ぶ事態が、ファルージャで起っている。今度の圧殺者は、シリアではなくて、アメリカである。
 
現在の状況をよりよく理解するには、ヴェトナムと対比させるといい。ヴェトナム戦争の時代には、西側国内の民主的制度が生きていて、民主的な生活が息づき、それによって、帝国は自己矯正力を持っていた。強力な反戦運動が、メディアとキャンパスとにしっかりフックされていた。しかし、いまはちがう。
 
ヴェトナムでの敗北以後のアメリカ政府は、その責任をメディアに負わせようとしてきた。これには一半の真実がある。というのは、メディアは、相手の残虐行為ではなくて、味方のそればかりを暴きつづけたのだから。そこで、カンボジアのキリング・フィールド以来、メディアの姿勢が変わった。政府側の言う「相手の残虐さ」に耳を傾け、これを伝えてきた。それが、第一次湾岸戦争時に、ひとりバグダードに残って報道しつづけたCNNレポーターの「英雄的な行為」に結果する。
メディア状況の変化を招来した原因のひとつは、メディア企業の所有形態にある。ハリウッド企業や国防企業がオーナーになっている。前者は、エンタテインメント重視に傾くし、後者は論争を回避しがちになる。その結果、アメリカにおける政治舞台が収縮していった。先の選挙のテレビ討論で、アブグレイブも、グアンタナモも、ファルージャも討論の材料にさえならなかったことが、その結果である。
 
政治問題から、選択の言語が失われている。悪の言語、宗教の言語でかためられる。(注。「自衛隊がいるところが非戦闘地域だ」とする小泉首相の袋小路的論理は、選択の試みをその根のところで殺してしまう試みの典型である。)
悪の言語の発端は、やはりヴェトナムでの敗北後に、ロナルド・レーガンが、当時のソ連を悪の帝国と呼んだことである。政治において、「悪」という概念を簡単に使うべきではない。悪とは共存できないのであり、したがって、悪との戦いは永久戦争である。そこには、「テロとの戦争」も響きわたるわけで、こうして政治の言語の領域を越えて、政治が文化の言語の領域で語られる。
 
9.11 以後、アメリカでコーランがベストセラーになったという、ニューヨーク・タイムズの報道に私は驚愕した。アメリカ人がどんどん書店に押しかけて、コーランを買い求め、ツイン・タワーを攻撃した人間達の動機を理解しようとしている、と。ファルージャの人々は、このたびの徹底攻撃を理解しようとして、聖書を読もうとするだろうか。そんなことはけっしてないと、私は思う。
 
アメリカでは、ディベートも知性も枠にはめられ、身動きがとれなくなっている。公の討論が、決められた道筋のなかでしか進まない。この社会では、政治の前提にかならず、硬直した文化観を置こうとする。政治を文化で説明できると。生物学や宗教をきまって持ち出す。一方、自らの西側世界については、歴史をつくり、文化をつくり、世界の他の地域とちがい、文化に縛られることはないと言う。しかしじつは、文化というドグマの餌食になっているのは、当の西側ではないか。そのドグマの作り手、それがメディアに他ならない。知性と討論の領域が、おかげですっかり狭いものになってしまっている。
 
ひとつ言いたいことがある。人権運動の危機についてである。第二次大戦後の人権運動は、ふたつの前提を持っている。ひとつは、人権の侵犯者は、新たに独立した第三世界の国家であるということ。もうひとつは、大国こそ人権の推進者であること。しかし、今日我々が直面しているのは、最強の国家こそが人権侵犯の主犯だという事態である。人権運動は、麻痺状態にある。これにどう対処するか。


マフムード・マムダニの近著 
Good Muslim, Bad Muslim
by Mahmood Mamdani
$14.95
Three Leaves Pub ; ISBN: 0385515375

[2004.11.18.]


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