★エルズバーグの「対イラク戦争はこうなる」

 この時期に、ダニエル・エルズバーグの名が、メディアに登場してきた。それは不吉な予感を呼び起こすものである。

 エルズバーグは、1960 年代に、アメリカ国防省で、ヴェトナム戦争の立案に参画した高官のひとりである。やがて、政府の欺瞞的政策に失望し、戦争遂行に関する秘密文書を暴露した。これは「ペンタゴン・ペーパーズ」と呼ばれて、『ニューヨーク・タイムズ』に全文が掲載された。この文書は、アメリカ国内の反戦の動きに弾みをつけるとともに、アメリカがヴェトナムから撤退することになるきっかけとなった。

 エルズバーグは、この 10 月に、新著『秘密-ヴェトナムとペンタゴン・ペーパーズ回顧』を刊行した。アメリカ議会が、ブッシュ大統領に戦争の全権を渡すことを決定したのは、その一週間後のことである。

 マイアミのブック・フェアに現れたエルズバーグは、ロイター通信の記者の取材に応じて、イラクをめぐる情勢の今後について語っている。その内容を紹介することにしよう。

「未来は暗いが希望がないわけではない。少なくとも人々に警告するために、私のできることをしようと思う。危険はあまりにも大きい」

「FBI が警告しているように、アルカイダがアメリカを狙ったテロ攻撃を仕掛けたら、イラク政府の関与の有無にかかわらず、アメリカはイラクに侵入するであろう」

「ただちに侵入を開始しない場合は、イラク南部と北部にある飛行禁止区域に、戦闘機を飛ばして、イラク側に撃墜させるよう仕向けるであろう」

「イラク側が撃墜できないとなると、さらに低空を飛ばすことになる。イラクとの戦争は、クリスマスのかなり前にはじまるであろう」

「フセインは、アメリカ軍に対して毒ガスを使用し、アメリカ側は、これに報復するかたちで、地中に達することのできる核兵器で攻撃し、多数の民間人が死亡するとともに、特攻訓練の志願者が急増するはずである」

「このような攻撃でテロの危険が減少すると思うほどアメリカ政府はバカではないと信じたい。実際には、テロが急速に増大するであろう」

「フセインは、アルカイダに大量破壊兵器を提供するであろう。これによって、イスラエルなどの近隣諸国が一掃され、パキスタンおよびインドネシアでは、イスラムの教義に共感する軍が権力を掌握し、パキスタンの核兵器は彼らの手に渡る」

「これら二カ国の協力が、アルカイダ・グループの捜索にとって絶対的に必要なのだが、それが失われてしまう。結果、アルカイダの力を削ぐことはもはや不可能になるであろう。オサマ・ビン・ラディンは、今後数千年にわたり、ムスリム世界の英雄として君臨するにちがいない」

「こうして、あらたな未開世界が現出する。地球は、カブール以外のアフガニスタンと同じ風景になってしまうであろう」

「イラクとの戦争を議会が公認したことは、『トンキン湾 2』(アメリカ政府は、トンキン湾内で、アメリカの軍艦が北ヴェトナム軍に攻撃されたとして、議会に戦争開始を認めさせた。このいわゆるトンキン湾事件はでっち上げであることが、現在ではほぼ認められている) である。私は、44 年にわたり、アメリカ政府の政策決定過程を研究してきた。現在トップにある人物たちのことは知らないが、彼らの顧問の何人かは知っている。その考え方はよくわかる」

「この戦争は数カ月以内に、きわめて破滅的な様相を呈するであろう。こんな忌まわしいことは起こってはならない」

「ヴェトナム」がたどった、絶望的な結末の責任の一端を負うひとりであるとともに、破滅の一歩手前でアメリカを踏みとどまらせるために行動したひとりでもある人物、エルズバーグの「不吉な予言」は傾聴に値すると思う。

[2002.11.27.]


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