★映画『プライベート・ライアン』の放映断念

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 11月11日のアメリカは、復員軍人記念日で、休日であった。この日、ABCテレビは『プライベート・ライアン』の放映を予定していた。この映画は、よく知られているように、第二次大戦中、敵の前線の背後で身動きできなくなった味方の兵士を救出しようとするアメリカ軍部隊の、懸命の努力を描いたスティーヴン・スピルバーグ作品である。しかし、この日、アメリカの3分の1強の地域で、この映画を観ることができなかった。各地のテレビ局が放映を断念したからである。

 子どもたちをエンタテインメント・メディアの「不道徳」から守ることを標榜する団体、アメリカン・ファミリー・アソシエーション(会員数230万人)が、同作品のなかで多用される「神を冒涜する言葉」、つまり fuck あるいは shit を問題にしたからである。もし放映したら、FCC(連邦通信委員会)に苦情を申し立てると脅迫していた。この結果、FCCに罰金を課されたり、将来、放送免許の更新を拒否される事態になるのを恐れて、「自主的に」放映を見送った局が相次いだ。

 これに先立って、各局からFCCに見解を求める問い合わせが行われている。しかし、放映前にどうこう言うのは、検閲にあたるから差し控える、ただし、放映後に苦情があれば、そのうえで対処するとの回答であった。これは明らかに「隠れ検閲」である。

 ABC系列では、この映画がこれまでに、二度放映されている。また内容は、ファシズムとの戦いであったり、スピルバーグの全ての映画がそうであるように、家族の称揚であったりするわけで、文句のつけようがないはずである。アメリカン・ファミリー・アソシエーションとかいう団体のほんとうの狙いは、ABC系列の他の「不道徳な」ドラマシリーズだとも言われている。

 今年はじめには、ジャネット・ジャクソンの胸が2秒間、テレビ画面に露出したというので、放映局が55万ドルの罰金を徴収された事件があった。

 「人々は、我々の文化の低劣さ、テレビや映画で見せられるものに、不安を抱いている」。これは大統領の首席補佐官の発言である。

 大統領選挙の結果に勢いづくキリスト教諸団体は、最近公開された映画『キンゼー』に対しても、「婚前セックスを容認し、中絶とエイズへの道を開く」という、いつの話かといぶかりたくなるような、無茶苦茶な理由づけをして批判を強めている。

 攻撃の矛先は、ディズニーや、育児用品の大手プロクター・アンド・ギャンブルにまで及んでいる。前者は、ディズニーランドへゲイを勧誘するキャンペーンをしているから、後者は、ゲイを雇用しているからという理由である。同性愛者は、遊園地へも行けず、職にも就けなくてあたりまえというわけである。

 ニューヨーク・タイムズは、権力による「アメリカ文化への過度の介入」を控えめに牽制しているけれど、そんな気楽な状況ではないであろう。イラクでつづけられる「猥褻」に背を向けつづけるには、アメリカのホームランドにおける道徳讃美がいっそう必要になってくる。

[2004.11.15.]


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