★アメリカ軍予備部隊兵士のやるかたない憤まん

 一昨年の 9 月 11 日以降のアメリカは、国家が非常事態宣言をしているのも同然である。平時ではなくて、戦時に準ずると考えていい。さらにこの春に、イラクに侵入することによって、本格的な戦時に突入した。6 月になって、ブッシュ大統領は、大規模な戦いは終了したと述べた。しかし、その後のイラクはいっそう混乱している。アメリカをはじめとする「同盟軍」への反抗が激化する。6 月の発言の軽率を突かれた大統領は、あれは「困難な戦いがつづくと言ったんだ」と逃げを打つようになった。

 アメリカは、ヴェトナム以来の長い戦時に入ろうとしている。この戦時状態を維持していくためには、戦場に軍を投入していかねばならない。軍を構成する兵士は、人間である。したがって、軍務がつづき、異常な状況が長引くと、精神と肉体とが耐えられなくなる。そこで、たとえ健康に見えても、ある期間を経れば交代させなければならない。さらに、戦闘領域が拡大したり、戦闘そのものが激しくなれば、増員をする必要が生じる。

 したがって、兵士のマネジメントが重要な課題になってくる。今回のイラクの場合、他の諸国からの兵士派遣が保証されない。戦争そのものに反対した国もあるし、反対はしていないものの兵員を投入するのをためらっている国もある。そこで、アメリカは自前で、兵士を供給態勢を確立する覚悟をしなければならないし、実際、そうしているはずである。日本のように、自衛隊を派遣するのかしないのか、国内の政治日程の都合で、さっぱり煮え切らない国などを相手にしていてもはじまらないわけである。

 ところが、兵士の動員に齟齬が生じようとしていることを告げるニュースがある。これは、10 月 17 日付けの UPI 電が、ジョージア州のフォート・スチュワート基地からのレポートとして伝えているものである。

 この基地は陸軍の第 3 歩兵師団の「故郷」として知られているが、先ごろのイラク戦争開始以降、病気になったり負傷した兵士が戦場から送り返され、ここの一角に収容されるようになった。これらイラク帰りが 40 パーセントを占める傷痍軍人たちの間に、処遇に対する不満が高まっているというのが、このレポートの趣旨である。

 前線から戻ってくる兵士たちは、ここで「医療待機」をしている。医師の診断を受け、外科手術などはここで行われるが、内科、神経科などの病気については病名が確定すると、医療給付金額が確定されて、それぞれ出身地の病院に移される。

 ところが、なかなか診断がくだらない。医師の診断を受けるのさえままならない。医師の絶対数が少なく、それにもかかわらず補充の目途がついていない。さらに、戦場で背負い込んだか、出征の過程でなった病気であるにもかかわらず、以前から罹っていたんだから「労災」にはあたらないといった診断をされるという不満が渦巻いている。つまりこうして、軍当局が医療給付金を低く査定しようとしているというわけである。

 このレポートに登場する、48 歳の軍曹は、イラク戦線で、軍用車の燃料補給の仕事に従事し、実戦部隊とともに各地を転戦した。戦争前は 2 マイルを 17 分で走るほどに健康だったが、いまでは肺の異常、過呼吸、耳鳴り、偏頭痛、目まいなどの症状を呈する。さらに、銃口を目にすると自殺を考える鬱にも陥った。出征前に受けた炭そ菌予防ワクチンの注射のせいだと考えているが、軍はこれを認めようとしない。イラクの生物化学兵器を、アメリカは戦争を正当化する理由としたわけだが、周知の通り、なにも発見されていない。逆に、政策担当者の嘘ないしは軽率のつけが、自国の兵士にまわってきたことになる。

 病や怪我で、この基地に収容されている兵士たちは、その環境の劣悪さにも腹を立てている。

 ジョージア州は南部で、10 月と言っても暑く、しかも湿気がひどい。彼らの寝起きしているのは、砂地にコンクリート・ブロックを積んだだけの兵舎で、エアコンもない空間に、1 棟 60 人が野戦用ベッドで寝起きしている。トイレがないため、シャワーと用便は、離れた共同棟まで出かけていかなくてはならない。そこは、流しが漏れっぱなしになっているし、おしっこの臭いで充満し、ゴキブリがうようよしていると、マーク・ベンジャミンというレポーターが記している。

 このような場所に隔離されている兵士たちの不満の根には、自分たちは差別されているという強い意識がある。彼らはすべて、陸軍予備部隊か、あるいは各州に所属する州兵部隊で、正規軍とはちがう。この戦争開始で、各地から駆り集められた「市民兵士」である。従来は定期的に基地に出頭して訓練を受ける以外は、普通の市民生活をつづけてきた。その人々が、この「国家の大事」に、突然呼び出されてイラクまでも行かされた。その結果、その兆候さえなかったはずの病気に罹ったらしい。しかも、きちんとした医療が受けられない。

 正規軍も予備部隊も、同じアメリカ軍として共に行動し、同じようにイラクの砂嵐のなかで戦ってきたはずなのに、自分たちだけなぜ冷遇されなければならないのか。この孤立感は、戦争に賛成するか反対するかという観念のレベルから発するものではない。戦争の現実に接した者がどうしようもない感覚として抱く。それは、ある種の厭戦意識につながっている。差別を受けるような軍にはいたくないし、これ以上戦いに参加するのはごめんだという兵士の意志は、国家の戦争意思を足元から掘り崩しかねない。

 国防総省は今後。予備部隊の召集を拡大する予定らしい。また、ブッシュ大統領は、10 月 9 日に、ニュー・ハンプシャー州の予備部隊の兵士たちを前にした演説で、「諸君は軍の背骨の一部になった」と持ち上げたそうだが、少なくとも、ジョージアの砂地に放置されて、見捨てられたという思いを深めている疾病兵士たちは、これを言葉通りに受け取ることはないであろう。

 アメリカにおける予備部隊の兵士は、市民と軍を結ぶ要の役割を果たすとともに、かつて、アメリカがイギリスの植民地だったころに、住民が自発的に銃をもって立ち上がった民兵の伝統につながっている。銃器規制に反対する人々が論拠としているのは、アメリカ憲法の修正条項にある「規律ある民兵」は国家にとって必要だから、人民が銃を所持する権利を侵してはならないという規定である。

 「市民兵」をないがしろにすると、合衆国存立の基盤にひびが入ることになりかねない。

[2003.11.4.]


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